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第8章 空白の時間


『まあ結婚するわけじゃないし、何がいいのか知んないけど』

「じゃあ尚更見ることなんてないでしょ、蝶ちゃんの花嫁姿なんて!絶対可愛いんだから僕が誰よりも先に____」

トウェインさんが言いかけたところで、ヴーッと大きなアラートが鳴り響く。

『!何?』

「緊急事態だ、まさかモビーに何か…!?」

すぐさまトウェインさんは部屋の入口に向かい、指示の詳細を待つ。
こんな時なのに人の暖かみが離れてしまっただけで少し物足りなくなってしまう私は、もう本当にどうしようもない。

自嘲的に口元を緩め、呆れたように息をついた。

《虎が逃げた、支給持ち場につけ!!繰り返す、虎が逃げた!!空対空カノン用意!!!》

フランシスさんの声に私もトウェインさんもハッとして、敦さんが逃げられたのだと知る。

「本当に脱出したのかい!?やるなあ!蝶ちゃん、僕行かなくちゃならな……まさかその顔、もしかして全部予想通りって感じ?」

『ご名答。ごめんね、でも私は逃げないよ、安心して』

「末恐ろしいよ全く…じゃ、また後で!一応蝶ちゃんはボスのところに行って!」

はい、と返事をするとすぐにトウェインさんは走っていってしまった。
空対空カノンと言っていたから、恐らくやはり射撃をするのだろう。

よかった、太宰さんに空からの攻撃があるかもしれないと先に伝えておいて。
きっと電話で言ってくれていたように、飽和チャフとスモークを用意しておいてくれてるはず。

敦さんだってうちの社員、虎の異能力さえあれば、トウェインさんの射撃からだってなんとか逃れられる…太宰さんもそれを信じて、Qちゃんの人形が届くのを待ってるはず。

『後は……上手く、いけばいいな。もうちょっとの辛抱だよ…大丈夫、来てくれる』

自分に言い聞かせるよう声に出して、指輪をキュ、と両手で握り、フランシスさんの執務室へと向かった。





「ミス白石、虎を逃がしたのは…っ、君は逃せないように手を打っていたな、すまない、取り乱した」

『いえ。でも私は、こうなる可能性があるって分かってて、それを伝えずにいました。それは…すみません』

「!可能性が…?何が起こったのかが分かっているというのか?」

コクリと頷くも、フランシスさんから責められるような事はなく、どういう事かを教えて欲しいといった様子だった。

『……ごめんなさい』
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