第8章 空白の時間
「そんな事が一番大事なんだよ。親バカはまあ認めるけど、普通の思いじゃそんな事出来っこないって」
ただでさえ短期だし頭に血も登りやすいだろう?と言われ、元々あれ程までに落ち着きや冷静さを感じさせるような人ではなかったということを思い出してコクリと頷く。
「相当努力してきたんだと思うよ…ね、化け物じみてるでしょ?強さも強さでおかしいし、蝶ちゃんの事も頭おかしいんじゃないかってくらいに大好きだ。自分の性格や態度がああにも抑制できる程に」
『……それでも中也さんは普通の人…普通よりもあったかい人だよ。どう足掻いたってあの人は普通の人で、私の方こそただの…うん、ごめん暗くなった』
再び苦笑混じりに笑い返せば、トウェインさんもやはり困ったような顔になる。
「エゴだらけの人間の方がよっぽど普通なんかじゃないって。蝶ちゃん誰より普通だよ、人間出来てる」
『そう…』
トウェインさんみたいに言ってくれる人ばかりじゃないし、そんな風に思ってくれているかだなんて、中也さんに対したって分からない話。
おかしいな、私。
中也さんから離れなくちゃって散々言葉にしていても、離れるように仕向けなくちゃいけなくなる時が来るって分かっていても、それを考えるだけでも死ねないよりよっぽど恐ろしくなる。
『……ねえトウェインさん、私ね、馬鹿なの。さっきだって助けなんかいらないって言ったくせしてさ…やっぱり、来て欲しいって思っちゃうんだよね。…………今更になって、来てくれるかとか、私の事思ってくれてるかとか、不安になってきちゃうの』
「僕としては渡したくないところだし、多分ボスがそうするだろうけど、中原中也は絶対来るよ。意地でも蝶ちゃんを迎えに来る。あの男が蝶ちゃんの事を思う事なんて、聞くまでもない程に自然な事だろう」
『ん…』
立ち上がってこちらに歩いてきて、またもや頭をポンポンと撫でられる。
それと一緒にギュウ、と抱きしめられ、本当に私の事を考えてくれているのだということが痛いくらいに伝わってくる。
もうこの人は、私の一番がどうやってもあの人なのだということを、とっくにどこかで悟ってる。
理解して、それを受け入れて、覚悟だってとっくにし終えたような人。
「まあ、だから明日の花嫁衣装だけでもちゃんと拝ませてよね!僕が一番最初に見るんだから!」
『……うん。分かった』
