第8章 空白の時間
『最悪…うああ…』
両手で頭を抱えて項垂れる。
カチャリと髪から枷が外されて、己の行動が更に恥ずかしくなった。
「いやもう本当可愛いね、やっぱやることも違うわ蝶ちゃん」
『もう言わないで!早く忘れて!!』
「忘れられないでしょ、可愛いドヤ顔しながらおっちょこちょいな事してる可愛い蝶ちゃんなんて」
『可愛くないわよトウェインさんのバカ!!』
暴言と共にトウェインさんの額に思いっきりデコピンをした。
デコピンの威力に驚いたのか少し後ろに下がって床に尻もちをつく。
「~~~ッ!!?いったいよこれ!!?何!?デコピンだよね今の!?」
床をゴロンゴロンと転がり回るように額を押さえて泣き言を言うトウェインさん。
ふん、乙女を辱めるだなんていい度胸してるわよ。
『……にしても本当、立原みたいねトウェインさん。リアクションそっくり』
「それ僕にもそのタチハラって人にも失礼だから!てかこんな痛いの受けたらこうなるよ普通!!」
『え?本気でやってもそんなになるほど効かない人いるよ?』
誰だよそれ!?いたらもうただの化け物だよ大丈夫!?
トウェインさんが言った言葉に間髪入れずに即答する。
『中也さんなら今の数倍の威力でも額を押さえる程度で…』
「あの男はそのへん本当にただの化け物だから!!そいつを基準にしちゃダメだから!!」
『化け物って…中也さんは普通の人だよ』
苦笑混じりにそう返すと、トウェインさんがピタリと静かになる。
「あの男はって、あんなのよりも蝶ちゃんの方がよっぽど普通の女の子だよ。去り際にいつも僕、なんて言われると思う?」
見当もつかないため、殺してやりたい?と首を傾げると、トウェインさんは慌てて上体を起こした。
「なんでそんな近いの!?…じゃなくて、まあ勿論それも言われるんだけどさ?君が好きだって言ってくれるままの自分でいたいんだってさ」
『何それ?中也さんって馬鹿?』
「蝶ちゃん辛辣!?いや、君が言ったんでしょ?あの男に、手が好きだとか好きだとか…そう言ってくれるのに、自分が僕をそのまま殺しちゃえば、君が好きな自分でいられなくなるからって。あれ相当我慢してるよ、今回なんて僕に手も出さなかったんだから」
ようやく意味を理解して、目を見開いて暫く何も言えなくなった。
『………馬鹿みたい、そんな事でまた我慢して…本当、親バカ』
