第2章 暗闇の中で
今でこそ自分の能力をここまで使いこなせるからいいものの、当時十一歳であった私はまだ未熟だったこともあり、目的の人物を思い浮かべただけでそこまで移動するだなんていう術を持ち合わせてはいなかった。
そもそもあの力も、使うとなればかなりの集中力がいる。
あんなにぐちゃぐちゃな頭のままで使えるとも到底思えない。
つまりは、太宰さんを探そうにも手段がなく、何も考えずにただぼーっとしてふらふらしていただけだったのだ。
そんなある日、中也さんが仕事から帰って来た。
大好きな中也さんといれば気持ちなんて紛れるかなって思っていたが、どこか心の中にぽっかり穴があいたような感覚で、結局その虚無感が埋められる事はなかった。
前々から中也さんは太宰さんとなかが悪かったし、組織から失踪した話だなんてとても口に出せないし、無理に笑顔に振る舞うのも相手に悪い気がした。
だからあの日は、久しぶりに外にでも出て気を紛らわせようと私なりに考えていたのだ。
首領にだけ行き先を伝えて、少し…いや、かなりの多さのお小遣いを頂いて。
流石に多すぎたので、常識的な範囲のお金だけを持ち、他はポートマフィア本拠地の方の自分の部屋に置いて、外へと出て行った。
最初はショッピングモールに行って色々と見て回っていたものの、やはり心は満たされない。
何かを買う気にもなれないし、おまけに恐らく首領が付けたのであろう、ポートマフィアの男の人達が数人、尾行してきていた。
心配だったのだろうけれど、生憎一人で居たかった私は能力を駆使し、撒いて逃げた。
一人になりたくて、最終的にたどり着いた場所は海。
ここならこんな季節に誰も来ないし、一人になるにはうってつけだ。
靴を脱いで海に足首まで付けてみた。当然寒いし冷たい。
けれど同時に、このまま海にでも浸かってしまえば、冷たさと窒息によって死ねるんじゃないか…………織田作さんのとこにいけるんじゃないか、なんて考えて。
そんな事ばかり考えていたけど、結局は海が…水に浸かるのが怖かった。死ぬなんて大層な勇気も持ち合わせてなくて、馬鹿な事ばかり考えてた私は靴を履こうと砂浜の方まで戻る。
否、戻ろうとした。
突然、片足が大きな触手のようなものに掴まれて、海の中へと引きずり込まれたのだ。