第2章 暗闇の中で
目が覚めると、驚く事に目の前には中也さん。
嬉しいのは嬉しいのだが、先程の中也さんの質問によって、今度は気まずい空気が流れることとなる。
「俺の言う事に拒否するなんて今までにないことするって事は、相当人には聞かせたくないことなんだろうって事は分かる。でも、だからこそ知りてぇ…あの日の無力な俺は、お前に気が付かないまま……いつの間にかお前は、俺の前から居なくなってた。」
ここまで中也さんに言わせるだなんて、なんて罪深い事をしているんだろうか。
しかし、だからこそなのだ。
『違うんです、中也さんに一番話したい。でも、中也さんだからこそ話せないんです』
「どうしても、か?…太宰の野郎や探偵社の奴等には、話してあるのか?」
『いえ、話せてません。…中也さんに真っ先に言いたかったんです。でも、あの時小さかった私の勝手な判断でこうなった事を考えると、話せなくて…っ、怖いんです、他の誰でもない中也さんだからこそ』
“軽蔑されてしまうのが”
小さく、本当に小さく、息を漏らしながら口を動かしただけだった。
突然、本日二度目となる中也さんからの包容。
体が反射的にビクついて固くなる。
「…言えばいいじゃねえか、何をそんなに怖がる必要があるんだ。俺がお前に軽蔑?そんな事するわけがねぇ!馬鹿な事言ってんじゃねぇ……頼む、教えてくれよ…っ」
掠れたような中也さんの頼む声。
私を抱きしめている震えた彼の手から、態度から、暖かさが染みる。
まさか、あんなつぶやきまで聞き取られてしまっただなんて。
ここまでされると、やっぱり、ああ勝てないって思っちゃう。
『……分かりました、あの日は私…ぼーっとしてたんです。』
「そう、だな…まああの日というか、あの時期は仕方ねぇよ。お前も結構辛かったろ」
そう、四年前、私がポートマフィアで過ごした最後の日。
私はただぼーっとしていた。
というのも、私によくしてくれていた織田作之助さんこと織田作さんが亡くなり、坂口安吾さんのポートマフィア脱退。
それだけでも精神的にかなり参っていた。
二人共、太宰さんとの繋がりで知り合った、私にとって大切な人だ。
しかし、その太宰さんが失踪したとの情報が入る。
どうやら中也さんと首領の根回しで私に伝わりにくくしていたようで、私が知った時は既に太宰さんは行方不明。
私は何も考えられなかった。