第8章 空白の時間
キッ、と睨みつけるようにして言えば、フランシスさんにもトウェインさんにも困ったような顔をされた。
「うーん、やっぱ麻酔じゃダメかぁ…いや、蝶ちゃん仲間に演技なんてするの心苦しいだろうしと思って、なんとか出来ないか考えてたんだよ」
『演技って…私が本当に捕らわれてるだけのように装うってことです?』
「そうだ、きっと君なら出来るのかもしれないが、何分こちらとしても君を痛めつけたくはない。だがリアリティは欲しいし、気を失ってもらうのが一番かと思ったんだが……麻酔が効かないのであれば仕方ない」
『仕方ないって、どうするつもりですか…?私、邪魔とかするつもりなんて全く…』
言いかけると、フランシスさんはトウェインさんに何かを合図して、トウェインさんが私を真剣な目で見つめる。
その瞳を見て、何も言えなくなってしまった。
「本当は十四歳の女の子に使うようなものじゃないけど、多分蝶ちゃんにならこっちの方が効くし…ごめんね。飲んでもらっても、いい?」
見せられたのは小瓶のような容器に入った液体。
見るからに怪しいそれだけれど、この人達が私に痛い事をしたくないというのは本心だろう。
『それ…何ですか?毒とか、身体に悪いものじゃないんですよね。私が協力出来るんなら飲みますけど、あんまりよく分からないものを飲みたくなくて』
「そうだな、確かに毒などの類のものではない…だが、君はかなり辛いことになるだろう。一応普通の手錠と足枷もはめさせてもらうが、効果は……まあ、身体の感覚がおかしくなるようなものだ」
どこか遠回しな言い方をするフランシスさんに首を傾げながらも、ここにいる以上はと自分で決めた事なので、仕方なく無理矢理納得する事にした。
『で、でも手錠と足枷って…痛い事、しないんですよね?』
「痛い事は絶対しないよ。でも本当に、かなり辛くさせちゃうだろうから、それだけは覚悟しておいてほしい。麻酔が効けば一番よかったんだけど、強くしすぎたり多く吸わせたりしても身体に悪いから」
トウェインさんの言ったことは以前中也さんにも言われたことがあるようなこと。
覚悟が必要だとは言われるが、どんなものなのかも分からなければ、効果を実感してから耐えるしかないだろう。
それに、痛い事はしないって約束してくれるんなら、手足が動かせなくても怖くはない。
『……分かりました』