第8章 空白の時間
トウェインさんに替えの服として持ってこられたものは、作版まだ着ることの出来ていなかったドレスだった。
デザインも私好みだし、正直やっぱり憧れではあったから、いいのはいいのだけれど…
『……私、元の服でもいいのに』
「いっぱい着てもらうからね〜、明日はあの白いの着てもらうよ!」
『いや、でもこれやっぱりちょっと恥ずかしいし…仕事服で』
「あれ洗濯出したし諦めてね」
なんて用意周到なんだ、こんなところでだけ。
いや、いいんだよ?
でもやっぱり恥ずかしいよね、慣れないドレスで一日過ごすの。
『トウェインさんって本当物好き…ね、これ私が着るのやっぱり勿体無いよ』
「そんな事ないって、あのボスが蝶ちゃんが着てて喜んでたんだから!」
『あれ喜んでたのかなぁ……』
髪はいつも通りにサイドアップで…でも中也さんがいないから、久しぶりに編み込みも無し。
しかしドレスとセットでついていた飾りでゴムを覆われ、また少し新鮮な気分。
それが少しこそばゆい気がして、なんだか無性に恥ずかしくなる。
そんな格好のまま朝食を終えて緊急プランの事で話があるとかでフランシスさんの執務室に足を運び、トウェインさんと二人で入る。
…本当に大丈夫なの、この格好。
『失礼します…』
「ああ、来たか。そんなに硬くならなくていい…ふむ、赤というのもいいものだな。似合っている」
何故か私を見るなり褒めるフランシスさんに余計に恥ずかしくなって顔を俯かせた。
『ど、ドレスがいいものですから……っ、で、話というのは?』
「話…そうだったな。いや、そろそろ虎の少年の意識が戻りそうだから、君の事をあの少年にも伝えようかと思ったんだ」
私の事を?
聞き返すと一つ頷かれて、続けられる。
「心の優しいあの少年なら、君の事を考えて俺に協力すると言ってくれるかもしれんからな。君には一つ、演技をしてもらいたいんだよ」
『演技…ですか?……ッ、!?』
言うが早いか、私のすぐ後ろにいたトウェインさんに、突然口元を塞がれた。
一瞬手が出そうになってしまったもののすぐに思いとどまった結果、口元に何かの薬を染み込ませた布を当てられたのだと気付き、そのせいか一瞬だけ意識が持っていかれそうになった。
「いきなりすまんな…だが、麻酔が効かないのか」
『何、するんです……ッ、…生憎、耐性があるものですから』