第8章 空白の時間
『じゃあ本の事は、私は誰にも言いませんし知らせません…もし私の力が必要になりそうなら言ってください。知り合いと闘うとか以外なら、力になれるようにしますから』
「!まさかそんな事を言ってもらえるとは」
『…単純に、犠牲になる人達と天秤にかけただけです。戦いが長引いても、どこの組織にも被害者は出てしまうんですから』
それだけじゃない、近い内に行われると聞く緊急プランでだって、何も知らない人達なら何人もの犠牲者が出てしまうだろう。
それが心苦しいだけ。
本を手に入れるだけでこの戦いが終わるのならば、血で血を争わなくて済む。
「成程、一理あるな。俺も君が辛くなるようなことは極力させないつもりだ…危機になったら頼むとしよう」
『はい、いつでも言ってください。首、外されても逃げたりしませんから安心してくださいね』
「分かっているさ、君はまだまだ普通の女の子。自分から戻るのも辛いだろう」
なんとか笑みを返す。
本当に悪いと思ってるんだ、この人。
普通の女の子と言われて複雑な気持ちになるものの、理解してもらえていてよかったと思う。
「……よし蝶ちゃん、もう明日からなんて言わずに今からいっぱい着ちゃおう!ドレスこれだけあるんだから、全部着てもらうよ!!」
『へっ…?……いや、トウェインさん、普通ならもう寝てる時間…』
「関係ないよ!数多いんだから、いっぱい着てもらうからね!」
「まあ、確かに少々持ってきすぎたのはそうだな…とりあえず三着ほど着てみてはどうだ?」
フランシスさんまでそんな事を言い始めるものだから、自分からいいと言った手前、反論も出来なくなってきた。
トウェインさんが元の調子に戻ってくれるんならとしぶしぶ言い聞かせ、それと同時にドレスを着るということにはやはり自分自身がわくわくしている面が出てくる。
『……し、仕方ないですね。…着てあげますよ』
「!よっし!!全部写真撮るからね!!」
『しゃ、写真!!?ちょっ、何の記念撮影ですかそれ!?』
「ただの僕のわがままだよ!」
わがまま…そうか、これがわがままか。
確かに、特別嫌な感じはしない。
度を過ぎると駄々をこねているといった表現になるのかもしれないけれど、わがままというのも親しい間柄でなければ出来ないことだろう。
『…ちょっとだけですよ』
散々撮られて後悔したのはまた別の話。