第8章 空白の時間
『………書いた事が本当のものになるって…横浜に、あるんですか』
「!君も興味が湧いたのか?」
『い、いえ、フランシスさんの邪魔をするつもりはなくって…理由も理由ですし、それならそう言ってくだされば、こんな戦いをしなくても済んだんじゃないかって』
興味、そんなもの、あるに決まってる。
興味も何も、本当にそんなものがあるのなら、死に物狂いで手にしたいだなんて思ってる。
「…確かにそうだが、本当にそれを実行した時のリスクを考えてみろ。何が起こるか分からない、そんな事に探偵社が協力をするとは思えん……そして敵は徹底的に潰さなければならない。俺の理念だ」
『リスク……そ、ですね…すみません、変な事言って。…私も頭冷やさないと』
冷や汗が流れるのを見てか、トウェインさんが私の方に向き直る。
「蝶ちゃん…君、自分の為に使おうって、思ったっていいんだよ?そんなに気にしなくったって……」
『私の願いを本物にしちゃったら、それこそ私の大事な人達が消滅してしまうかもしれない…私に助けられたって言ってトウェインさんだって、今ここに生きていないかもしれない』
言うと同時にトウェインさんの顔が青くなる。
そして恐る恐る、トウェインさんが何かを悟ったようにして口を開く。
「やっぱり君は…どうしても、そこが辛いんだろう?それなら本を使えばいいじゃないか、リスクなんか考えないで」
『ダメ、トウェインさんも大事な人。私は人よりも与える影響力が強過ぎるものを望んでるんだから…分かるんでしょ?もう、言わないで』
「……なんでだよ、こんなに他の人のためにばっかり動いてるのに…一番幸せになりきれないの、蝶ちゃんなのに……っ」
トウェインさんの言葉が痛いくらいに刺さってくる。
普通になりたい、ただそれだけの願いが、私くらいに生き続けてこの世界に影響を少なからず与えてきた存在なら、大きな危険を呼び寄せる。
何より自分の大切な人達がそれに巻き込まれてしまうのが、私には一番耐えられない。
『もっと早く知ってればよかったかな、この話…ほら、ざっと五百年くらい前にでも。それなら何も考えずに使えてたかもしれないじゃない?』
精一杯笑って言う。
泣かないでよトウェインさん、貴方のせいじゃないんだから。
「そういう冗談、今言われたって笑えないって…馬鹿……!」
『うん、ありがとう。本当に』