第8章 空白の時間
結局あれから、三着ほどまでと言っていたのにも関わらず、何故かテンションの上がるトウェインさんのせいで何着も何着も着せられた。
いつ寝てしまったのか覚えていないくらい……あ、いや、思い出した。
『……着たまま寝てたの私?』
「あ、起きた?」
身に纏う水色のドレスが見えたかと思えば、どこかからトウェインさんの声が。
『うるさい…誰のせいで寝てたと思ってるの、もうちょっと寝るのー…』
「もしかして朝弱いんじゃ…って蝶ちゃん!?」
『んー………ん?』
ついいつもの癖で何かをギューっと抱きしめたのだが、それが何であるのかを確認して、みるみる頭が覚醒し始める。
「こんな風にされると手出しちゃいそうで怖いんだけど…」
『………』
ソッと無言で腕を離し、ベッドの端まで後ずさる。
『……知らない、なんで一緒に寝てたのトウェインさん』
「無かったことにしようとしてる!?昨日写真撮って楽しんでる内に蝶ちゃん寝ちゃったから、部屋まで運んできたんだよ!!」
『は、運んでっ!?』
「横抱きにしてたら蝶ちゃんの方から抱きついてきちゃって、離そうにも離せなくて今ここ!OK!?」
横抱きにして…?
私の方から抱きついてって……ええ!!?
『な、何してんの私…なんでトウェインさんに!?』
「ちょっとその言い方心に刺さる!でも大丈夫、蝶ちゃん僕の事を中原中也と間違ってただけだから!」
『へ?ま、間違ってた?』
ピタリと思考を止めて間抜けな顔をトウェインさんに向ける。
「うん、思いっきり中也さんって言いながらすごい嬉しそうな顔してたし。僕は糠喜びさせられたけどね」
もしかして、毎日一緒にこんな風にして寝てたの?
とトウェインさんに言われて、ブワッと顔が熱くなる。
『な、ななっ!?そんな事ッ』
「プッ、わかり易すぎ。まあまあ、幸せな気分で寝れたんなら良かったよ」
『って私この格好のまま寝てたの!?フランシスさんの娘さんのやつなんだよねこれ!?』
「うわあ、見事なスルースキル…僕そろそろ泣きそう」
トウェインさんの言葉を無視して急いで皺を直そうとドレスのコルセットの紐を解く。
よくこれで寝てたな私。
そして慌てて背中のファスナーを下ろそうとした時。
「ち、蝶ちゃん!?本当に僕の事忘れてる!?」
『えっ!?』
目の前に彼がいた事を思い出した。