第2章 暗闇の中で
寝室にて、蝶を敷布団へと寝かせ、中原は暫く蝶の顔を見つめていた。
思い出すのは、今よりもっと蝶が小さかった頃のこと。
「…あんなチビだったのになぁ、こんな綺麗になっちまって」
愛おしそうに、月明かりに反射する白くて長い髪を掬い、撫でる。
髪を堪能した後、片手で蝶の頬に軽く触れ、顔を近づけた。
『……ん〜、…』
声が聞こえ、少し首をよじった蝶を見て我にかえったのか、パッと手を離して元の姿勢に戻る。
「………ちっ、らしくねぇ」
舌打ちをするも、中原のイライラは治まるどころか増すばかりだ。
それもその筈。
勿論先程の男子達の事もそうである。
しかしそれよりも中原は、四年もの月日を蝶と無理やり引き離されてしまったことの原因も、その手掛かりさえも掴めていないのだ。
____“中也さんっ!”____
幸せそうに俺の名を呼ぶあの頃の蝶。
相当俺に懐いていただなんてこと、自他共に認める周知の事実だ。
そんなあいつが、自分から俺と離れる事を望んでいた訳がねぇ…もしもそうだとしたらとても悲しいのだが。
しかし、それも今日のやり取りによって違うという確信が持てた。
あんなにも俺の事を求めてた…それに、ポートマフィアでもかなりの地位に就いていた蝶を攫うだなんて真似をする奴に検討がつかない。
そんな俺自身が情けない。
____『中也…さん、?』
蝶の声に反応し、そちらを向く。
『あれ、私何で…』
「赤羽と話しながら寝ちまったんだよ、疲れも溜まってたんだろ。んで、ここまで運んできた。起こしちまったんなら悪い」
状況を把握していない蝶に、事の経緯を大まかに説明する。
『運っ!?ご、ごめんなさいわざわざ!!』
即座に起き上がり、中原に向かって頭を下げる蝶。
「いや、謝んなよそんくらいで。相手はお前なんだ、何も嫌な事なんかねぇよ」
言い終わると、中原はそれより、と話を切り替える。
「聞いていいか?情けねぇ事に、今まで何にも情報が見つからなかったんだが…」
『情報、ですか?私がお答え出来ることなら何でも聞いてください!』
それでも少し考えてから、蝶の目を真剣に見つめ、重たい口を開いた。
「なら聞く。…蝶、お前に四年前のあの日、何があった?そして、今までどうしてて、横浜に帰って来れた?」
暫しの沈黙。
『…それ、答えなきゃダメですか?』