第8章 空白の時間
「もー…とりあえずここにいる内は蝶ちゃんは僕のなんだからね」
『トウェインさんの……?』
「何を言っているんだ、俺の所有物だろう」
「二人して酷くない!?本当に親子みたいに見えてきたよ!!」
トウェインさんの突っ込みで思い出した。
そうだ、フランシスさんにも家族がいるんだ。
私くらいの娘さんがいるって…
『フランシスさんの娘さん…見てみたいなぁ』
「…悪いが、俺の娘には今は会えん。娘は死んでしまっているからな」
フランシスさんの言葉に、トウェインさんと二人で目を見開く。
死んでる…?
そんな人に対して、私は父親がいたらだなんて事を言ってしまってたの…?
『ふ、フランシスさん、私…っ』
「ああ、君が気にすることじゃないさ。俺自身、年齢のせいもあるだろうが本当に君を娘に重ねて見ていたのもあるからな。それに言ったろう?“今は”と」
「今はって……ああ、まさかそういう事」
何故か納得したようなトウェインさんだが、私は何のことだかさっぱり理解が出来ない。
「ミス白石、君にも伝えておいた方がいいな。今回我々がここに来た理由なんだが、それは横浜に眠る“本”を探すためなんだ」
『本?…横浜に、眠る……?』
「そう。何も書かれていない真っ白な本…そこに書かれた内容を現実のものとする本だ。俺はそれで、家族の死を無かったことにする」
フランシスさんの話す想像もしていなかった今回の作戦の中身を知って…そしてそんな本の存在を知って、初めて色々と筋が通ったような気がした。
何故そう思ったのは分からない。
けど、きっとそうだ…だからこの人達は、敦さんに狙いをつけたんだ。
『虎の能力が、道標になるんですか』
「そういう事だ。察しが良くてびっくりだよ」
『……それだったら、私を上手く使えば良かったのでは?私の能力はあらゆるものを移し換えることができるもの…フランシスさんなら知っていたでしょう』
「何分その本に関しては写真も何も無くてな。トウェイン君の大切な人らしいし…あのままだと最大の脅威になりかねなかったからこうさせてもらっている」
成程、家族を想っての行動だったのか…どうりでいい目をしているわけだ。
芯のある真っ直ぐな目。
この人は大切なもののためにもがいている人。
やり方に問題はあるかもしれないけれど、だからこそ冷酷にもなる事が出来るのだろう。