第8章 空白の時間
率直な思いを伝えると、トウェインさんもうんうんと首を縦に振る。
「何、個人的に気に入っただけだ。それに…俺の娘と同じくらいの歳になる子供に、酷な事は出来まい」
『娘さん…?子供って、私がずっと生きてきてるの知ってますよね?なのになんで子供って…』
「ずっとと言っても、人と関わり合って成長する機会にはあまり恵まれて来なかったのだろう?無理に大人になってしまっていて、見ていてこちらが辛くなるほどだ」
中也さんにも言われた事があるような事を言われてピタリと止まる。
「ちゃんと子供の過程を踏んでから大人にならなければいけないぞ。今でも十分思うところはあるが、中原中也と出会った頃なんかはもっと人に頼る事が出来なかったんじゃあないか?」
『!!』
これでも、懲りずに人と関わり合っていた時期もある。
大切な人達に囲まれて、中には素直に目の前で泣く事が出来るような人もいた。
だけどそんな人達も、みんなみんな私をおいて先に死んでいってしまった…いや、死んでしまう前に私から去ることだってあった。
結局自分の知る限りの全てを話す事が出来た人がいても、どう足掻いても私のおかしな身体を普通の身体にする事は出来なかったのだ。
話して受け入れてくれて…恋愛にまで発展するような事はなかったけれど、私の為に本当に人生を棒に振ってしまった人だっているんだ。
「ここで誰かに甘えようと、誰かの一生を無駄にするような事態にはならない。好きな事をして好きに過ごして…憧れるような物が目の前にあるんなら、着るくらいのこといくらでもすればいい」
見抜かれてた。
初めから、私が真っ白なドレスに目を奪われたところから、フランシスさんには全部見抜かれてた。
『……っ、内緒、ですよ?私がこういうのに憧れてるとか…普通の女の子みたいな事しか考えられない、どうしようもない奴なんだとか』
誰にとは言えなかった。
言ったら、耐えられなくなるような気がした。
「誰かが言わずとも、恐らくそれは本人が一番理解しているだろう。そうでなければ、君に普通の女の子の普通の甘えさせ方を教えはしていないさ」
『あの人、まだ二十二ですよ?私を拾ったのだって十四の時で…本当、なんであんなに私の事ばっかり考えちゃうの…』
誰よりもあの人がそう考えてくれてるだなんてこと、それこそ私が一番分かってる。
…普通に、なりたい。