第8章 空白の時間
「蝶ちゃん、そんなの考えなくってもいいじゃないか!折角あの男に出逢えたんだよ!?少しは自分の幸せだって考えたっていいんじゃないの!?」
『今もう、十分幸せですから。おかしいくらいに幸せなんですよ?こんなに私が幸せなんだから、中也さんが幸せにならないなんて事、あっちゃいけないんです』
トウェインさんもフランシスさんも本当に人がいい。
元々私を自分のものにする為に捕まえたはずなのに、私の気持ちまで考えてるような事まで口にして…言ってること無茶苦茶ですよ、本当。
「あの男なら喜んで君に一生を尽くすと思うぞ?寧ろそれが一番彼にとっても幸せな…」
言いかけて、何故かフランシスさんは口をつぐんだ。
『余計にそれじゃあダメなんですよ。私が一番なままじゃ、本当に人生を棒に振っちゃう』
中也さんともしも両想いになんてなれたら、あの人がそうなる前に、その事を伝えてちゃんと離れよう。
なれる可能性がどれ位あるのか分からないけど…そうなりたいのが本音だけど、そうなると本当に中也さんに申しわけなくなっちゃうから。
いい人が見つかったらすぐにでもその人のところに行ってもらった方がいい。
それで私はどこかで一人で……___
また、独りになるだけだから。
ポツリと呟いて、口元を緩めた。
偽善者くさい、本当はそんな風になりたくないって、自分が一番思ってるくせに。
中也さんから離れたくなくて、既に彼の生きてきた人生の大半を奪ってしまってるくせに。
目の前の純白のドレスに、苦しいほどに憧れてるくせに。
「あの男はきっと頗るしつこいぞ?このトウェイン君よりもよっぽど君に執着してるだろう」
『ふふっ、知ってます。だからもう暫く甘えていたいなって思うんですけど…あと何年かで見切りをつけなきゃ、ダメですね。ここで子供のままでいちゃ、取り返しのつかない事になっちゃいますし』
せめて中也さんが三十になるまで……ううん、ダメだ。
見切りをつける準備をするなら、もうそろそろ向き合わなきゃ。
「…まあ君がする事に俺が口を挟みすぎるのも良くないな」
「ちょっ、ボス!?」
「だが、それだけの事を考えているんだ。ここでは甘えられるだけ甘えればいい」
フランシスさんの再びのこの発言に、トウェインさんも私もそちらを向いた。
「なんだ、二人してそんな顔をして」
『い、いえ…意外だなと』