第8章 空白の時間
「え、着てくれるの!?やった、僕もそれ、一番着てほしかったんだよ!」
『一応言っときますけど、着るだけですからね?私誰とも結婚なんてしませんし』
私が素直にそう言い放った途端に、フランシスさんからもトウェインさんからも笑顔が消える。
「君は誰とも結婚しないのかい?年齢的には確かにまだ無理だろうが、トウェイン君…に限らずとも、誰かとは出来るんじゃないか?」
「ボスの心遣いが逆に痛いよ!!てか蝶ちゃん、勿論僕としてほしいって言いたいとこだけどなんでそんな事言うの!?君、今だってあの男が好きなんじゃ…」
『中也さんが大好きだよ。でもダメなの、もし中也さんとそういう関係になれたとしても、私は誰とも結婚なんて出来ないから』
なんで、というような目を向ける二人に、特に特別隠すような事でもなかったので淡々と説明する。
『ほら、私戸籍が無いですから』
「戸籍って、日本のあれか…で、でも戸籍って確か新しく作れたりもするよね?」
『勿論作る方法が無いわけじゃないけど、私なんかが戸籍を作っちゃうと、管理してる人達が混乱しちゃうから』
フランシスさんは勿論だが、トウェインさんまでもがどうしてだといった反応を見せる。
『フランシスさんは知らないんでしたっけ。まあトウェインさんが知ってるだろうからもう言いますけど……私、何百年経っても死なないんですよ』
「その話は今日、トウェイン君に聞いた。詳しくは話さなくてもいい…だが、その死亡届とやらはなんなのだ?日本の戸籍についてはあまり詳しくないんだが」
トウェインさんが伝えてくれてたんならありがたい。
言うとしてもフランシスさんかルーシーさんくらいにしか言いはしないだろうし、自分で話さなくて済む。
『戸籍を作ったら、それは日本で、所謂生きてる証になるんです。それに対して死亡届が、そこに記載された人物が死んだ証…私は何百年も死ねない身体です。死亡届が出せないままじゃあ、いつまで経っても死なない人間が存在する事になっちゃいますよ』
普通に考えてそれはありえない事…あってはならない事。
親しい人だって、いつまで生きているかわからない。
こんな存在が、日本で公に生きてる証を存在させてはならない。
「だけど今じゃ籍を入れずに事実婚の人とかもいるんでしょ?それなら、蝶ちゃんだってそこまで気にしなくてもそういう事は出来るんじゃ…」