第8章 空白の時間
展示されている衣装全てをうっとりと見つめていて、その中のとある一枚に特別目を惹かれ、少しだけ足を前に踏み出す。
『なんでこんなのが…?』
「ほらトウェイン君、言われてるじゃないか。だから言ったろう、ミス白石はまだ十四歳だと」
「だってボスがこんなの持ってたんだし、着てもらいたくもなるでしょ!」
一際目を惹かれたそれは、純白のドレス。
誰がどう見ても、それにしか見えない。
『で、でも本当に私今十四だし…け、結婚とかするつもりないし……』
「とりあえず着てほしかったのー!!今は結婚とか抜きにして!!」
『だ、だってこれ!!どう見たって“ウェディングドレス”じゃないですか!!!』
フランシスさんが苦笑いになるほど突っ込みどころが多すぎる。
ていうかこれフランシスさんが持ってたんだよね?
なんで私サイズのウェディングドレスとか持ってたのこの人。
「でも可愛いでしょ!?絶対似合うって、ベールとかアクセサリーとかもちゃんと揃ってんの!!」
トウェインさんの言う通り、それはとてもとても可愛らしいデザインのドレス。
だからこそ私の目にも止まりやすかった。
プリンセスラインのシルエットのオフショルダーになっていて、スカート部分は六、七段のティアードスカート。
それが純白であるというだけでも目を奪われるのに、デザインも私好みのもの。
特に私が惹かれたのは、スカートの切り返し部分に付けられた、特別目立つ綺麗な飾り。
同じ形のリボンをその飾りで留めてあり、留められたリボンのフリルが長く流れるように下に垂れていて、ただただそれを見つめ続けた。
『…蝶型のリボンに飾りって……こんな偶然…』
「僕も見た時びっくりしたんだよ!まさかボスがたまたま持ってたこのサイズのウェディングドレスに、蝶のモチーフがあしらわれてるなんてって」
所々、主張しすぎない程度に見えているレースにもちゃんと蝶があしらわれていて、白石蝶となってから大好きになった白色の蝶がたくさん目について、余計に目が離せなくなった。
『着るのが勿体ないくらい綺麗…』
「君が着てくれた方が、俺も嬉しいのだが…どうだ、そんなに気に入ったんなら明日にでも着てみるか?」
フランシスさんの言葉に無意識に首を横に振った。
『まだそんな心の準備出来てませんし……でも着てみたいから、明後日にでも』