第8章 空白の時間
「も〜ごめんってびっくりさせて。ほら食べようよ、美味しいよ?これ」
『いい!そんな気分じゃないの今!美味しいなら結構!!』
トウェインさんの執務室のソファに拗ねて蹲って、ヤケになったように声を上げる。
「ええ…本当、すっごい美味しいのにこれ。何、どっかの有名ブランドか何かのケーキ?」
『………さっき作った』
「えっ…え、さっき!?作った!!?」
今度は不機嫌な事なんかよりもなんだか恥ずかしくなってきて、顔を膝に埋めて拗ね続けているふりをする。
『今私お金持ってきてないですもん。フランシスさんに許可取って厨房と食材借りて作ってきた』
「ま、まさか蝶ちゃんの手作りだったとは…こんな美味しいのに食べないの勿体ないよ!食べよ食べよ!!」
トウェインさんが素直に嬉しいことを言ってくれるから、余計に恥ずかしくなってきた。
何よ、ちょっと前までフランシスさんとかルーシーさんが心配する位にまでへこんでたって聞いてたのに。
『…後で食べるからい……な、何してるんですか』
「え?何って、食べてもらおうと思って」
首を傾げてキョトンとしているあたり、本当にこれが素なんだろう。
知ってたけどやっぱり凄いな外国の人。
これが素で出来るとか、どこかの確信犯の中也さん位しか知らない私。
フォークをこちらに向けるトウェインさんに顔を向けて、思いっきり不機嫌そうな顔を返す。
『私は中也さん以外の人に食べさせてもらうつもりはありませんー』
「!もしかして記憶戻ったの!?思い出した!?」
『え!?何何何、落ち着いて!?』
私の記憶が戻ったのを知らなかったのか、トウェインさんが物凄い勢いで私に顔を近づけ、肩を掴む。
「良かったー…もう本当、戻らなかったらどうしようって……」
『どうしようって…トウェインさんのおかげで思い出せたんだよ?記憶をちゃんと思い出す方法も全部、トウェインさんのおかげで思い出せたの』
「…かなり嫌な思いはさせちゃったと思うけど?」
それでもありがとう、そう言えば、トウェインさんは微笑んでくれた。
「うん、こちらこそ、そう言ってくれてありがとう。あと君の大好きな曲あの男から伝言」
俺は嫌いになってねえ、今でもお前が一番のままだ。すぐに迎えに行ってやるから待っとけ。
伝えられた言葉に驚いて、目をゆっくりと見開かせた。
この言葉は、本物だ。