第8章 空白の時間
ケーキは盛った、お茶も淹れた、ルーシーさんにも高評価をいただけた。
準備は万端だ……万端なのだ。
『…………なのになんでこんな時にチキンになるのよ私…!!』
一人、ケーキや食器類を乗せたお盆を持って、トウェインさんの部屋の前を行ったり来たりする。
口実でも作らなきゃ話しかけに行けないのも相変わらずで、増してや今最も気まず過ぎるトウェインさんが相手だ。
ど、どうしよう、なんて声かけて入ればいい!?
パターンその一、やっほ〜トウェインさん!さっきの事はごめんね、もう大丈夫だから気にしないで!はいこれ、ケーキ作ったから一緒に食べよ♪
都合良すぎるでしょうが私の馬鹿!!
いきなりテンション高くなりすぎてて不自然すぎるわ、却下よ却下!!
『次…!!』
パターンその二、先程は失礼な態度をとってしまって本当に申し訳ありませんでした。これ、お詫びの品です。では。
どんな業務連絡よ!二人分持ってきた意味ないじゃない!!
『つ、次……っ』
パターンその三、失礼します。あの、さっきの事で話があって…一緒にお茶しながらでも、話せません?
『………ダメだ、これじゃあ完全に口実で釣りに行ってるようにしか…』
「なーにしてんの、さっきから」
『っひゃあああ!!?』
耳にフゥッと息を吹きかけられて、思わず叫び声をあげてそこからガタガタッと後ずさる。
危ない、折角持ってきたケーキを落とすところだった。
そして私にそんな事をする人は組合の中にはたった一人しかいないわけで…その人を見て、更に私は挙動不審になっていく。
「プッ、!ビビりすぎでしょ…ハハッ、やばいすっごい面白かった。で、何してたのこんなとこで?蝶ちゃんの変な声が聞こえて出てきてみれば」
『何!?何か聞いたの!?何聞いたのねえ!!?』
「え、パターンその一とやらから色々と…」
全部声に出てた…それを悟った瞬間、目から生気が抜けていく。
トウェインさんの苦笑いを見ながらガタガタと震える。
『…な、何も聞いてなかったことにしよ?そうしよ?』
「んー?変な予行演習してた事?」
『そんな事誰がしてたのかなあ〜、変な人もいるんだね〜…』
変な人と言って自分で凹んで自滅した。
墓穴しか掘ってない。
「うん、僕の事考えてテンパって焦ってる蝶ちゃん、すっごい可愛かったよ」
『お願いだから忘れてええ!!』