第8章 空白の時間
あれから暫くして、私が厨房を借りて一人で何やら作業をしていると聞きつけたのか、仕事を終えてラフな格好になったルーシーさんが厨房に足を踏み入れる。
なんというグッドタイミング。
丁度あとは装飾用のトッピングを乗せるだけとなった頃だったので、本当にタイミングが良かった。
「聞いたわよ、記憶が戻ったんでしょ。よかった……と言いたかったんだけど、なんでこんな時間にシフォンケーキ?」
太るわよ、という目を向けられる。
しかしたかだか夜中にケーキを食べたところでそうなっているのであれば、私はとっくに動けない身体になっているだろう。
『大丈夫ですって、全然シフォンなら軽いですし!それに私この時間なら普通にいくらでも食べられますよ♪』
クリームを塗りながら上機嫌になる。
人に振る舞うのは勿論だが自分でも食べる予定の目の前のケーキについつい心が踊る。
「そ、そう?よく食べられるわね、聞けばさっきもすごい量のデザート食べてきたって…」
『へっ?今日そんなに食べてないですよ?』
「えっ」
普段ならお昼にも食べてるし。
量だけ考えてみれば、本当にそんなに食べてはいない…はず。
『……!出来た!ルーシーさんもお一つどうぞ!』
食べて食べて、と目を輝かせて言えば、ルーシーさんは仕方ないわねと諦めたように食べてくれる。
「……なにこれ、貴女、料理上手いのね。普通の材料を使っただけでこんな舌触りになるとかおかしいと思うくらいよ」
『え、それ褒められてます?…まあほら、まずは胃袋からゲットしないとじゃないですか!』
「何故かしら、今貴女が物凄く輝いて見えるわ」
スイーツに関しては中也さんが、言いはしないけど実は結構好きなのだと前々から察しはつけていたので、お弁当を作り始めてから日々好みのものを研究中なのだ。
元々人よりしてきていた分経験もあるし、一流の料理人の元にいた事だって勿論あるし、今現在も進歩中…美味しいという自信はある。
『ルーシーさんには特別に、明日の分も一つ残しておきますね!二つ食べるの、他の人には内緒ですよ?』
悪戯に人差し指でシーッと身振りをすれば、クスリと微笑んでもらえた。
「貴女本当に私の事を邪険に扱ったりしないのね、変わってるってよく言われない?」
『わたしは人より変な子なんで、これが普通なんですよ』
「そ。じゃあ有難くいただくわね」