第8章 空白の時間
「ああ、そういえばそうだ。トウェイン君から、君に渡すように頼まれてたんだが」
トウェインさんの名前に肩をピクリと反応させて、恐る恐るといったようにフランシスさんの方に顔を向ける。
するといつから持っていたのだろうか、パックに入ったストレートティーが私に差し出される。
『トウェインさん…から……?』
「君と離れる前に買いに行っていたんだろう?渡しそびれたから渡しておいてくれないかと言われてな。一応上司なはずなのだが…まあ引き受けてきた」
差し出されたパックを受け取って、自分がまた情けなく思えてクスリと笑みをこぼした。
『…ふふっ、本当…お節介』
「トウェイン君はああ見えて純粋だからな」
『バレないとでも思ったんですかね?…これ、自動販売機なんかじゃなくって、わざわざコンビニまで買いに行かないと売ってなかったでしょうに』
「そう言ってやるな、君のリクエストに答えたかったんだろう」
パックはとても自動販売機で売るようなサイズのものではなく、コンビニやスーパーに行かなければ売っていないような五百ミリリットルのもの。
ご丁寧にストローまでついてきているし、やけに飲み物を買ってくるのに時間もかかってたし、そういう事だったんだ。
一人でようやっと納得して、ああそうだ、あの人は馬鹿なくらいにお人好しな人だったと思い出す。
『……トウェインさん、帰ってきてからどこか怪我したりしてませんでした?』
「ん?いたって健康そうだったぞ」
『そうですか、ならよかった…じゃあフランシスさん、厨房今から使わせてもらいますね!』
涙を拭い終えて、笑って言う。
「今から?君は先程夕食も取っていたし、トウェイン君とたらふくデザートを食べてきたんじゃなかったか?」
『私の胃は甘い物を食べるためにいっぱいあるんですよ』
「…そうか、それは面白い身体だな」
フランシスさんも笑ってくれて、俺が案内しよう、と言って立ち上がる。
それに合わせて私もベッドから立ち上がり、フランシスさんのあとをついて行く。
モビーディックの廊下に、私達二人の足音が響き渡った。
『トウェインさんはまだまだですね、中也さんでもケーキ四つとパフェ二つとアイス三つならいけますよ』
「君はあの男とトウェイン君をどうする気だ」
『なんならフランシスさんも一緒に…』
「……またの機会に頼もうか」