第8章 空白の時間
「ん?これは擽ったくはないだろう」
『い、いや…なんで、いきなり……?』
嬉々とした表情から優しげな目に変わって、フランシスさんは私の頭を今度はゆっくりと撫でながら言う。
「勿論、君が頑張ったからさ。擽ったかったのは勿論、怖かっただろう」
フランシスさんの声とその目にキョトンとして、この人はこんなあたたかさを出せる人なんだ、とまた一つ認識を改めた。
そして私の事をそんなに知らないはずなのに優しさと一緒にふってくるこの手があたたかくて、安心して…思わず、ふと変な事を思ってしまったのだ。
『フランシスさんって、中也さん…とはちょっと違うかな。もし私に本当にお父さんがいたら、こんな感じの人だったのかなぁ……』
言った途端にフランシスさんの手がピタリと止まった。
不思議に思ってフランシスさんの方に顔を向ければ、目を見開いて驚いている。
『フランシスさん…?わ、私やっぱり変な事言っちゃいましたよね、すみません……』
「…いや、いい。まさか君の口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったが、案外いいかもしれないな。君が俺の娘というのも」
『へっ?』
フランシスさんの返しに、今度はこちらが驚く番だった。
「君がそうしたいのなら、いつでもそういう風に思って頼ってくれて構わない。トウェイン君の為にも君をここから逃がしてあげるようなことは出来ないが、出来ることなら何でもしよう」
ポンポン、と頭を撫でて、手を離される。
『…それならまず二つだけ……』
二つだけでいいのか?と不思議な顔をされたが、はいと潔く答える。
私が頼みたいのは、わがままとなんでもないようで大事な事。
『厨房と食材の使用許可が欲しいのと…後は、今回の戦争がどういう結果で終わっても、フランシスさん達とまた関わりあえたらなって』
「そ、そんな事でいいのか?君、折角ならもっとわがままでも言ってみればいいものを…まあ君を横浜に帰すつもりはないが、トウェイン君と一緒にいることになったとしても関わりは持ち続けるつもりさ」
『え、私これでもわがまま言ってるつもりで…』
フランシスさんの言葉に少し嬉しくなったものの、もっとわがままをと言われて再びキョトンとする。
「それはただのお願い…というか、使いたいというだけのことだろう?」
『わがままって難しいですね』