第8章 空白の時間
考えれば考えるほどに、自身の中にある感情と脳内の情報の差にある違和感が大きすぎて、気分が悪くなってくる。
「思い出したの?……その割にはなんだか顔色が悪そうよ」
『…なん、か……頭の中グルグルして気持ち悪い…』
中也さんとの色々な思い出が頭を巡っているはずだ、なのになんなんだこの違和感は。
初めてキスした日の事も、修学旅行で助けられた時の事も、ちゃんと鮮明に思い出せる…なのに、よかったって思いきれない。
___名前をつけてもらった時のことが、思い出せない。
『!…ルーシーさんごめんなさい、ご飯行きましょ』
「えっ、でも貴女、大丈夫なの?様子が…」
『うん、大丈夫、整理できました……私、最近の事しか思い出せてなかったみたいなんです。だからちょっと、自分の感情がどこからきてるものなのかが分からなくて…ちょっと、悔しいだけなんです』
初めて会った日、名前をつけてもらった日、初めて怒られた日、仲直りした日…私くらいの年の頃の中也さんを、私は何も思い出せていない。
今の中也さんしか、分からない。
なんで?こんなに好きって気持ちは溢れてくるばっかりなのに。
こんなにあの人の事を思っているのに……どうしてそう思ったのかも分からない。
こんなに想ってるのに……なんでよ、なんで思い出せないのよ。
「ちょっと悔しいだけって……それ、全然大丈夫じゃないんでしょ。流石にそろそろ、見てれば分かるようにもなったわよ…」
『…首輪さえなかったら思い出せるのに』
「!どういう事?…私は外してはあげられないけど、思い出せるって……」
そうか、ルーシーさんは私の能力をよく知らないんだ。
『これが無かったら、能力を使って無理矢理記憶を引っ張り出せるはず…ちょっと前に一回自分の記憶を弄ろうとした事があったんです。さっき思い出した…』
中也さんに手をあげさせてまで止められたあの使い方。
あの時は忘れる為に使おうとしたけど、移す先を変えさえすれば、自分の中にあるはずの記憶を引っ張ってこれるはず…難しいかもしれないけど出来るはず。
「貴女、そんな事が……とりあえずかなり遅いけど夕食にしましょ。それからボスにも話してみればいいわ」
『フランシスさんに…?』
「どういう結果になるかは分からないけど、あの人だって人間よ。それで思い出せるんなら、聞いてみる価値はあるはずだから」