第8章 空白の時間
「!それは…また、どうしてだい?原因さえ分かれば何とか…」
「原因がまた蝶の体質の問題で…あいつの身体は、あいつの身体に急激な変化をもたらすようなものに対して何らかの措置をすぐに取り始めるようになってるんです」
外傷が瞬時に治るのも、それよりは時間がかかるけれど体の内部が破壊されようともすぐに再生が始まるのも、様々な薬に対してすぐに耐性がついてしまうのも。
人体実験中にいくつか対処しきれないようなものも見つかったらしいが、それでも大体のものはあいつの身体が勝手に異変をストップさせてしまう。
「俺も実験施設のレポートを見ただけで、多分あいつ自身経験も無くてこればかりは実証したことはなさそうなんですが……その体質のせいなのか何なのか、あいつの体内には卵子が存在しないらしいんですよ」
「!卵子が!?そんな事があるのかい!?」
「はい、流石にあいつも女なんで誰にも言いはしませんでしたが、卵巣などの内蔵類や器官はちゃんと全て存在していて機能しているのにも関わらず、卵巣の中に卵子そのものが、ただの一つも存在しなかったらしいんです」
俺自身、人体実験のレポートを持ち帰って読んでいた時に衝撃を受けた。
本人にも到底聞けるはずもなく、その上そこまでの事を調べ尽くしてあったその実験もやはり中々のものであった為、誰かに詳細を話したりなどしてこなかった。
器官はあるのに、中身がない…無排卵という事などは女にはあると聞くこともあるが、それとはどうやら違うらしく、卵子そのものが蝶の中に存在していないのである。
治療も何も、初めから無いものを作り出すことなど不可能な事。
蝶自身も恐らく、俺がこの事実を知っているということを知らない……あいつ自身は、この事を知っているのだろうか。
知っていたとしても知らなかったとしても、どの道女が普通に生きていっていれば、そこは本人の中でかなりネックになる可能性が大いにあるという事は否めない。
「まあこれもレポートに書いてあった事で、俺もそう納得をしたんですが、あいつの身体が要らないものであると判断したんじゃあないかと…それかもう一つの考えとしては、あいつの遺伝子を残さないように身体が勝手にそうしているのか」
残さないというよりは増やさないと言った方が正しいだろうか。
「な、中原君。君…それを知ったのはいつだったんだい……?」