第8章 空白の時間
「はっ?触手って……まさかラヴクラフト!!?」
本気で驚く様子を見ている限り、故意にやられたものではない…掴んだ胸倉を離して睨みつけていると、相手の携帯が鳴った。
携帯の向こうからは先程いた、触手を持っていなかった方の異能力者の声が軽快に響いてくる。
「やあトウェイン。ダメじゃないか、あの子を一人にしてちゃあ。僕とラヴクラフトがたまたまさっき見つけたから捕まえといたよ」
「ちょっ、ジョン!?僕すぐ近くにいたんだよ!!?それに、蝶ちゃんに触手使ったってラヴクラフトだろ!!」
「え?ダメだったのかい?怯えてくれていた上に首輪もついてて捕まえやすかったよ」
聞こえる声に、頭に血が登りすぎたのか、寧ろ冷静になったような気さえした。
「…絶対あの子の意識が戻ったら顔見せないで。もし会いに行ったりでもしたら流石の僕でも怒るよ」
「えっ、君が?なんで…まあ、いいか。とりあえず戻っておいでよ、今は部屋の方にまた運んだ所だからさ」
プツリと一方的に切られたらしく、無機質な音が鳴る。
「………僕、戻るよ。さっき蝶ちゃんの事怖がらせたばっかりだから、今の蝶ちゃんの状態を確認するのも出来るか分からないけど」
「…すぐに取り返しに行ってやる……ッ、おい手前!!蝶に…俺は嫌いになってねえとだけ伝えとけ。今でもあいつが一番のままだからと……すぐに迎えに行ってやるって伝えとけ!!!」
逃げるようにして言いきってから、すぐにポートマフィアの拠点に向かって走り出す。
触手に捕まえられたなど、蝶にとってどれ程の恐怖になるのだろうか。
それも今度は身体を…首を、締めあげられて。
姿がまだ蝶のままであったことを見ると、殺されていないということは確信が持てる。
そしてきっと、相手は蝶の事を殺さない。
「失礼します首領、中原です!!」
事前に知らせる余裕もなく唐突に訪問したからか、首領は目を見開かせてこちらを見る。
今はエリス嬢とはいなかったらしく、スムーズに話が進められそうで安心した。
「お、驚いた…どうしたんだい?蝶ちゃん絡みの事だとは思うが…あれ、でも君確か沖縄に船出して行ってたんじゃ?」
蝶の担任に送ってきてもらったと言えばすぐに話が通じて納得される。
しかし俺がここに来た目的はそこではない。
「首領、それよりも……ッ、リングを使用する許可を…!!」