第8章 空白の時間
「んで、手前…俺は蝶をもう組合にやるつもりはねえんだが?」
「奇遇だね、僕も君に返すつもりは無い。何やらうちのボスも蝶ちゃんに甘くなっちゃってるし…あの人、前々から何か考えてたしね」
「あ?何かって何だよ」
知ってたらこんな言い回ししないって、と呆れる相手に睨みをきかせる。
だが、お互いがこう思っているのは元から分かっていたことでもある上、蝶がどう出るのかが分からない。
さっきまでだってあんなに取り乱していて、このトウェインとやらと共に組合の拠点に戻ろうとしてやがった始末だ。
「……俺はやらねえっつったらやらねえぞ。あいつの気持ちなんか知った事じゃねえ、もう開き直るって決めてんだよ」
「え、今更?おっそいね君、蝶ちゃん本当に可哀想」
グサリと胸に刺さった。
こ、こいつ……遠慮無しに俺の傷口を抉ってきやがる。
「うっせえ!!!とりあえず蝶を…____」
探しに行く、そう言おうとした。
しかしその瞬間、耳を劈くように聴こえたあいつの声。
『来ないで!!!!』
「「!!!」」
悲鳴のような叫び声。
俺も相手もすぐに顔を声のした方に向け、走り出す。
『……ッ、やめ…っ、ぁ………』
「蝶!!?」
異能力を使って飛ばして来て、やっと蝶の姿を確認したかと思ったら、俺の愛しい少女がそこで気を失っていた。
「ん?…ああ、ポートマフィアの……この子はもらっていくよ。給料分は仕事しなくちゃね?」
敵の腕…否、敵の触手に締めあげられて。
「手前らっ……うおっ!!!?何っだ、これ…!?」
すぐさまその触手に足を掴まれ、遠くへと飛ばされる。
受身はとったもののかすり傷が多いのかシャツに血がついていた。
しかし今はそれどころではない。
再び異能で加速して元の場所に戻ってきた…あいつの元に、戻ってきたはずだった。
「………なんで、だよ…っ、……クソ………ッ!!!」
そこには蝶はおろか、先程の二人も見当たらない。
何処に行ったのか、気配すらしない。
走り回って蝶を探し回っているうちに、またトウェインとやらと出くわす。
「あ!?ちょっと君、僕の事置いていったでしょ!?いったいなんのつもりで「なんのつもりはこっちの方だ!!!」何、今度は何なのもう!?」
「あいつに…蝶に触手なんざ使って、無理矢理連れ戻したのはどっちだよ!!俺をはめたのか手前!!?」