第2章 暗闇の中で
一方その頃、男子部屋では
「中原さん、俺達皆、中原さんに聞きたいことがあるんです…」
神妙な面持ちで問う岡島。
「お、何だ?蝶も良くしてもらってるみたいだし、何でも聞いてみろ。」
「で、では遠慮なく…その、白石さんとは、」
「付き合ってるんですか!?」
思いのほかストレートに割り込んで聞いた前原。
しかし、岡島を含むその他一同は、不良共を一人で相手して蝶を助けて帰ってきたという中原の強さを聞いているため、顔を青くして返答を待つしかなかった。
「俺と蝶が?何馬鹿な事言ってやがる、俺と蝶は色々あって、今日四年ぶりに再会したばっかだ。付き合うも何も別れちまったのがあいつが11の時で、今日はそんな気分にもなれねえし……って、どうしたんだ手前ら?」
中原の返答を聞き始めた時は、心の中で軽く恋仲ではないのかと思う程度だったが、四年もの間別れていたという事実を耳にした一同は驚きを隠せなかった。
「い、いえ…白石さんは中原さんの事を話すとき、いつも幸せそうな顔をしてたので……そんなにも長い間離れていただなんて思ってもいなくて」
「そ、そうだよな?だって白石、あんなに中原さんのこと好きそうにして中也さん、中也さんって…」
磯貝の言葉を聞いて寺坂が口を滑らせる。
バカ!と言いながら村松と吉田が口を抑えにかかるも、中原には聞こえていた様子。
「あいつが好きだって?俺の事を?…まあ、俺もあいつの事は好きだぜ?ただの知り合いなんかじゃねぇ、何よりも大事だと思ってる」
「そんなに大事に思ってるのに、恋人…じゃあないんですか?」
「恋人も何も、そもそもあいつが俺の事をそんなふうに見てるなんてことねぇよ。よく考えてみろ、8つも年上の奴のことなんか、女子中学生が恋愛対象として考えるわけねぇだろ」
笑いながら答える中原。
しかし普段から蝶の様子を見ていた一同は、ここで中原中也という人物が、どれ程鈍感であるのかという事に気が付いた。
「あっ、蝶ちゃ……!」
そして、すぐさま部屋の外で聞こえた赤羽の声。
部屋の中にまで木霊したその声を聞いて真っ先に外へ出たのは中原。
「赤羽か!蝶がどうした!?」
「あ、中也さん…寝ちゃったみたいで」
そこにいたのは、自動販売機横のベンチに座り、赤羽の肩に身を預けて寝ている様子の蝶だった。