第8章 空白の時間
口からポロッと出た言葉だった。
『あ、れッ?なんで私そんな事言って……あれ、おかしいな…なんで?私中原さんの事は忘れてるはずで…』
ドクン、ドクンと胸が脈打つ。
トウェインさんに言われた通りの光景が、はっきりと鮮明に思い出される。
『…無理矢理、…恥ずかし、事……された……?…そ、うだ。私、何かが怖くってそれで…お願い、して……』
「お願いして、僕らになんて言ったんだっけ」
『………なんでもするから、もうやめてって……中也さんと離れる、から…私から中也さんを取らないでって……』
それだけだった。
私の中にあったのは、たったそれだけのことだった。
そうだ、私…この人の事ばかり考えてた。
恥ずかしいことされて、好きでもない人にキスまでされて…それ自体なんかよりもよっぽど、この人に失望されるのが怖かった。
「思い出したらもう何なんだって感じだよ、感度はイイし可愛い反応してくれるし……なのに口を開けば中也さん中也さんって。挙句は人質とか関係なしに、そんな事だけで精神ぶっ壊れちゃって、組合に大人しくついてきちゃったんだよね」
『わ、たし…は、…』
「本当、可愛かったよ。やめてって泣いてるくせして、敵に犯されて感じちゃってた蝶ちゃん」
感じてた…自分に何があったのか、はっきりと思い出した。
『…ぁ…違う、違、う……ッ…違うの!!!』
「!蝶っ、待て!!!」
「…」
汚されちゃった、本当にただのいやらしい子になっちゃった。
好きだった人以外の人に無理矢理されて身体をビクビク反応させちゃうような、そんな子になっちゃった。
……中也さん以外の人にされて刺激によがるような女の子に、なっちゃってた。
二人から逃げ出すように走って、走り続けて、どこなのかも分からないような裏路地に入り込んでへたり込む。
ごめんね中也さん、私、汚い女の子になっちゃったよ。
ごめんね中也さん、他の男の人に、恥ずかしいとこ見られちゃったよ。
ごめんね中也さん、他の男の人に、また唇にキスされちゃったよ…
ごめんね、ごめんね……約束してたのに___
『っ、ごめんなさい、ごめん、なさいッ……』
貴方の記憶が、貴方との記憶が邪魔になるだなんて思ってしまった。
貴方のことを覚えているのがどうしようもなく辛くて、怖いだなんて思った。
____貴方のことを忘れてしまって。