第8章 空白の時間
「…っ、蝶!いいからとりあえず帰ってこい!!組合の拠点になんか戻らなくたっていいんだよ!!」
『え、っ…?なんで、』
なんで、貴方のことを忘れてしまった私の事を怒らないの?
どうして、私に帰ってこいだなんて言ってくれるの?
「なんでも何もねえだろ!!なんで俺が、お前がそこにいるのに手放さなくちゃならねえんだよ!?」
『……で、も…私、貴方のこと何も知らなくて』
「記憶なんか後でもいいだろ!?馬鹿かお前はっ、折角会えたのに、なんでお前から離れていっちまうんだよ!!?」
『!!』
私と一緒にいて幸せだったという人。
私が一緒にいたいと思った人。
そうか、だからこの人は私にそばにいろって言ってくれるんだ。
ただ単純に、私のそばにいたいって思っているから、そう言ってくれているんだ。
「…確かに僕じゃあ君には勝てない。教えてあげようか?僕らが蝶ちゃんに何したか」
「あ?……手前、やっぱ心当たりあんのかよ。何しやがった、こいつに」
「簡単な話だよ。ボスの言葉で言えば、この子が女の子であるからこそ出来たこと……この子が君の事を想っていたのを誰もが分かっていたからこそやった事だ」
トウェインさんが言った瞬間に、中原さんはトウェインさんの襟を掴むんで睨みつける。
「…いいから早く言いやがれ」
トウェインさんはニヤリと口角を上げて、今までに私が見たことのないような顔を浮かべて言った。
「なに、さっき蝶ちゃん本人が言っていただろう?首輪を付けたのまま、腕を拘束して無理矢理キスして……そうだね、たっぷり胸を堪能させてもらったかな」
『無理矢理、キス……?…え、っ…胸、って……?』
冷や汗が止まらない。
身体が何かを思い出したように震えて、どうしようもなく寒い。
「ね、蝶ちゃん。僕は全然優しい人間なんかじゃないんだよ?ほら、思い出してみなよ…ホテルで部屋に連れ込んで無理矢理蝶ちゃんにキスをして」
『や、やだ……、そんな、の…』
「蝶ちゃんがよわい首筋なぞったりしてさ?腕縛って服脱がして、嫌がる蝶ちゃんの胸を刺激して…ああ、舐められるのが気持ちよかったんだっけ」
トウェインさんの声に従って、やけにリアルに感覚が思い出されていく。
やだ、やめて…そんな事、しないで…
『違、っ…私、そんなの好きじゃないッ!!違う、違うのっ…中也さんじゃなきゃ……っ』