第8章 空白の時間
私が泣きやんでからトウェインさんはプリンをいくつも購入していて、本当に私が食べた分を全額払ってくれていた。
「今日はいつもより食べてたものね蝶ちゃん、普段なら半分こにしてたところを今日は一人で食べちゃってたから」
「ええ!?あの量の半分こって、あの男そんなに食べてたんですか!?」
トウェインさんが本気で驚いている。
甘いものなんか食べてる顔じゃないでしょ、と呟いている始末だ。
…それにしても半分こなんてしてたんだ、私。
「ええ、いつも頑張って食べてくれてるわよ?蝶ちゃんに食べないのかって聞かれたら食べるに決まってるだろって…フフッ、まあ相当お腹はキツいでしょうけどね」
『……あの、色々とありがとうございました』
「いえいえ、蝶ちゃんと中也君にもいつもお世話になってるからね!早く思い出せるよう祈ってるわ!」
オーナーさんご夫婦に一礼して喫茶店を後にする。
『トウェインさん、そんなにプリン買い込んでどうしたの?確かにすっごく美味しかったけど』
「ボスや皆にもお土産だよ。蝶ちゃん発案のプリンだからね!まさかこんなものに出会えるだなんて思ってもみなかったけど!」
『そっか、お土産…トウェインさん、ここ、左に行ってもいい?』
ふと、気になる道を見つけたので指さして問う。
「ん?うん、いいけど…どうしたの?」
『なんか、さっきの店出たらここ通らなくちゃって…あ、でも戻らなくちゃならやっぱり』
いいです、と言おうとしたのに、トウェインさんは左に曲がってしまう。
『えっ、トウェインさん?』
「折角何かヒントが掴めるかもしれないんだ。僕も、記憶が無い事で泣いてる蝶ちゃん見てたら辛くなるし…寄り道するくらい大丈夫だよ。元々蝶ちゃんに来て欲しかったのは、僕個人のわがままだったんだからさ」
『!!……うん…っ』
自分の身体が、本能が向いたい、向かわなければならないと思う方向へ、足を進めていく。
トウェインさんは本当に、最後に拠点にさえ戻ればどこにでも行かせてくれるつもりなのだろう。
私の隣を歩いて…
「ん、?蝶ちゃん…?」
おそらく無意識だったのだろう、クッ、とトウェインさんの服の袖を掴んだ。
『…この道歩くの、こうしないとダメ』
「そう…あーでも、僕ちょっと喉乾いてきたし飲み物買っていくよ。蝶ちゃん先に歩いて行ってて?」
『飲み物?』