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第8章 空白の時間


『!いなかった?』

「蝶ちゃんが初めてここに来てくれた時よりも前からあの子は来てくれてたけどね?ほら、中也君!」

カランッ、と音を立てて、長いスプーンを机の上に落としてしまった。

『あ…っ、ご、ごめんなさい』

慌ててスプーンを拾ってパフェの容器に入れ、頭を回らせる。

そうだ、私の記憶のなくなってる部分には、必ずその人が関与してる。
トウェインさんから聞いた話じゃ服のセンス以外にろくな印象は持たなかったけれど、ここの夫婦が揃いも揃って私とその人が仲が良かったといった反応を見せているのだ。

「…もしかして、中原さんの事を忘れてしまっているのかい?」

口を閉ざしていた…というより、恐らく普段からあまり話をする方ではないオーナーさんが、核心をつく。
コクリと恐る恐る頷けば、女性の方は口を片手で抑えて驚いていた。

「あの子を…?そんな事が…」

『……私、いつもどんな風にその人と接していたんですか?それに、常連とはいえなんで私にプリンのサービスなんて…』

分からなくて怖いのを隠して、ちゃんと聞いた。
知るのも怖い、けれど、知らないのはもっと怖い。

……自分が、この私が好きになった人。
知りたい、私をここまで変えたその人の事を。
私に名前を付けてくれた、その人の事を。

「いつもねえ…私達もここに来てくれてる時しか見てはいないから、全部は分からないけど……すっごく二人共幸せそうよ。蝶ちゃんもすっごく無邪気に笑ってて、いつも中也君にベッタリで、微笑ましいくらいに甘えてた」

『私が?男の人に、ベッタリで甘える…?想像つかない』

本音だった。
幸せそうで、無邪気に笑ってて…それじゃあ、まるで普通の女の子じゃあないか。

それに相手も幸せそう?
私と一緒にいつもいて…幸せそう?

「入ってくる時も出る時も、いつも腕を引っ張って入ってくるか腕を組んで入ってくるか…ああ、最近なら手を繋いでたこともあったかしら!ついにお付き合いでもしたのかななんて思ってたりしたんだけどね」

「小さい頃の夢は中原さんのお嫁さんだったな確か…」

そんなにいつもくっついて…お付き合いとか、私とは程遠いものばかりが並べられる。

そんな発想が出来るくらいには変わってたって事だ。

変わってなければ、誰かが私のものだというようにくっついたりなんてしない。
好きになんか、なってない。
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