第8章 空白の時間
冗談のつもりだった。
ほんの軽口、そして私が甘いものが大好きだから、ついつい言った言葉だった。
しかし何故だろうか、前にも同じ事を言ったことがあるような気がする。
『…トウェインさんとデザート食べに行った事って、無いよね?』
「え?う、うん、じゃないと今こんなに驚いてないよ僕」
『だよね…んー……?』
客の多くて少し喫茶店というよりはカフェのような雰囲気のこの店。
時間帯が時間帯だからか、人はほとんどいなかった。
そしてこの味…覚えてる。
多分、何回も食べた事がある味だ。
一人首を傾げながらパフェに乗った苺をつついていると、オーナーさんの奥さんらしき女性が、私の元にやって来た。
「はいどうぞ、プリンですよ」
『!えっ、私プリン頼んでないですよ!?』
頼んでないはずなのにプリンがやってきたのだけれど、あまりにも美味しそうなそれ。
瓶の中に入ったプリンは底にカラメルソースが入っており、プリンの部分はとろとろで…って、なんで初めて見たはずのプリンにこんなに詳しいんだ私。
「え?」
私が驚いていれば、何故か女性の方が驚いており、コーヒーカップを磨いているオーナーさんまでもが私の方を少し目を見開いた様子で見ていた。
「蝶ちゃん…の双子さんか何かかしら?私てっきり、いつも来てくれてる子かと……」
『蝶…は私、ですけど』
「!そうよね、良かった間違いじゃなくって!今日のお相手さんは初めて見る人だけど、仲が良さそうでよかったわ。ついいつものくせでプリンのサービス持ってきちゃったのよ」
頬を緩めて笑顔になるその人。
オーナーさんも優しい目をして見てくれてる。
いつものくせ、そしてこの味にこのデジャヴ感…私、ここの常連だったの?
『いつもって、私どれ位の頻度でここに…』
つい声に漏らしてしまったが、ここの喫茶店がよく来ていた所だと気づいたトウェインさんが、説明を入れた。
「あー、蝶ちゃん色々あって、今ちょっと一部記憶が飛んじゃってるみたいなんですよ。今日は僕がたまたまここに入りに来たんですけど…何か思い出せそう?」
記憶が飛んでる、そう聞いてまた二人共目を見開かせ、今度は心配そうな顔を浮かべる。
『味と、このプリンは出されたらすぐに思い出せました』
「いつもすごい美味しそうに色々食べてくれるからね…そう、記憶が。それで今日はいなかったのね」