第8章 空白の時間
「あ、そういえばもう横浜に着いてるんだよ!どっか買い物とか、何か食べにいったりしたいとことかない??」
『え、横浜に?…うーん、ごめんなさい、あんまりよくお店とか覚えてないの。欲しいものも特に無いし……あ、トウェインさんがどこか連れてってよ。甘いものならいっぱい食べたい』
「僕が?甘いものか…何がいい?」
すうだねえ、とトウェンさんも考えながら、何がいいかを考えた。
『………甘いもの、しか分からない。前に人と食べたのがもうずっと前…の記憶しかなくて、あんまり覚えてないみたい。でも、どんな味なのかは覚えてるの』
変な感じ、と付け足して言うと、じゃあいくつか置いてあるところに行こうかと微笑んでくれた。
我ながら無理なお願いをしたんじゃないかとも思ったのだけれど、甘いものが食べられると言うだけで、私はもうご満悦だ。
ご満悦…なはずなんだ。
「ボスからね?今日は横浜で好きな事をさせてきてあげろって言われてるんだ。というのも、明日から組合は緊急プランに乗り移ることになったから」
どこか気分が良くなりきれないままトウェインさんの話に耳を傾けていると、妙な話が聞こえた。
『緊急プラン?何それ』
すると少しだけ答えにくそうに苦笑いになって、緊急プランなるものの内容を説明してくれる。
今日横浜に着いてから、組合はQちゃんを捕まえたらしい。
そして組合の構成員の一人に、植物と感覚をリンクさせることが出来る人がいるらしく、その異能力を応用してQちゃんの呪いの対象者を無差別に拡散しようというものであるそうだ。
横浜の全ての植物に感覚が共有され、木の根を踏みつけられたり蹴られたり、よじ登られたり…誰かが何かをすれば、それでQちゃんが傷付けられ、呪いを発動すれば気付かぬうちに精神汚染が始まる。
『……成程。中々残酷な事考えるのね』
「あれ、意外。もっと辛くなるんじゃないかって思ってたのに」
辛くなる?
私が?
『横浜…知らない事が多すぎて、辛くなりもできないよ。強いて言うならQちゃんが相当辛いんじゃないかなとは思うけど』
「うん?そっちじゃなくて、知ってる人たちの事は心配じゃあない?」
『知ってる人って…ああ。うん、あの人達はそんな事、すぐになんとか出来ちゃうだろうからさ。全然心配してないよ』
ふわりと微笑むとまた少し驚かれる。
「……じゃ、行こっか」