第7章 克服の時間
「……それで、必死になって俺達を遠ざけていたのか?契約破棄だなんて話を持ち出してまで…全員を守るためにか……?」
「そうだよ、あいつはそういう奴だ…この部屋を見りゃ分かんだろ?話し声まで丁寧に聴こえるようセッティングして、扉のロックシステムにまで細工なんかして……誰かがここに入って自分がいないって確認すんのを、あいつは必死に隠したかったんだろ」
何でだ、と、全員考えることは同じらしく、蝶がそこまでして知らせたがらなかった理由を模索し始める餓鬼共。
どうしてわざわざ今日の夜までしのげるような嘘を吐いたのか…
簡単に、それも当然のように、俺の中では分かってしまった。
あいつは普通の人間じゃなくて、誰よりも普通に人間らしい人間だ。
出来すぎてるくれえに人間が出来てる奴なんだ。
友人なんてものが出来て、受け入れてくれる人間が出来て、あいつがそれを守ろうとしねえはずがねえ。
悲しませたくないと、考えすぎるくらいに考えるはずだ。
「…手前ら今年度で卒業だろうが。最終日まで、思い出作りの邪魔して暗くさせたくないとでも考えてやがったんだろ……まんまと全員、それも最初っから、あいつの思い通りに動かされてたってわけだよ」
項垂れるようにその場にしゃがみ込む。
「………どこまでの事を考えてんだよ、白石の奴」
「蝶は想像出来ねえくらいに先の事まで見越して行動しやがる。自分が危機に追い込まれそうな時は尚更だ。あいつは本当に、困るくらいに賢いからな……あ?…そうか、そうじゃねえか!!おいカルマ、蝶の荷物こっちに渡せ!!」
「え、荷物?これ重入ってるから俺じゃ無理なんだけど」
そういや入れてやがったな確かにと思い返しながら、希望を抱いて自分から荷物の方に歩いていく。
それを片手で持ち上げてベッドの上で広げ、持ち物を全て出していく。
「ち、中也さん?いったい何してるの?」
「あいつは考える余裕さえあったら、絶対に何かヒントを残して行くはずだ!俺と簡単に離れられるわけがねえ!!……手前ら、部屋中を捜索して、蝶が何か置いていないか探し回ってくれ!!」
惚気混じってた気がするけど、と、全員部屋中の戸を開けたり引き出しの中を見たりし始める。
人数が多いためすぐに捜索が終わり、何も無いということが判明した。
荷物の中を漁っていて見つかったのは、包装された何かの箱のみだった。