第7章 克服の時間
「了解した。まあ白石さんなら、中原さんが来ていると分かれば自分から会いに行きたがるとは思うが」
「ははっ、そんな気がするよ俺も」
「何とか無事に戻ってこられて本当に良かった、白石さんにも中原さんにも感謝しかない。部屋の鍵はこれだ、ゆっくり休んで疲れをとってくれ」
烏間さんからルームキーを受け取って、また軽く挨拶をし合ってから部屋に行った。
イリーナ・イェラビッチにも話をしたかったのだが、あの女も今日のところは疲れて寝ちまったと聞いている。
取引だから仕方の無いことではあるが蝶とまだ会えないのはまあ残念だ。
しかしそれは、逆に言えば蝶の前で話せないような内容に触れる事が出来るということ。
直接お互いに顔を見合わせながら、あの女に蝶の話が出来る…
「にしてもあいつ、よくあの状態から持ち直して俺抜きでそこまで回復したな……アレも買ったし、能力無しに鷹岡に本気も出せて色々と振り切ったみてえだし、出てきて枷はずしてやってからなんか買ってやっかな」
ベッドに横になって、自分の心を掴んで離さないあの少女の綺麗であどけない笑顔を思い浮かべながら、愛しさを募らせる。
口角を緩めて目を閉じて、近くにあいつがいると思うだけでどこか浮き足立っていて、そんな気分のまま眠りについた。
目が覚めたのは次の日の夕方頃。
E組のガキ共と同じだけ寝ていたらしいが、烏間さんからも何も言われてはいないし、携帯にもなんの連絡も入っていない。
横浜の方でも何も問題は無さそうだ。
「…!そうだ、蝶っ!!」
蝶の様子が気になりすぎて、咄嗟に身体が動いて、昨日烏間さんから言われた事を忘れて慌てて蝶の部屋に向かう。
部屋の番号は予め調べておいたため、場所も既に把握済だ。
そして部屋の前に立って、ようやっと思い出した。
そうか、烏間さんから何も言われてないって事は、まだ蝶は取り込み中…
やっと頭が冷静になったものの、蝶が体調を悪そうにしていないか気になって、ドアにそっと耳をひっつける。
これが誰かに見られていたら、俺は確実に不審者か何かだろう。
《___は、_______、なので…》
「…ずっと話続けてんのかあいつ」
ドアから耳を離して、いよいよそこにいてはいけないと頭が理解して、その場を後にした。
外を見ると餓鬼共も皆いて、担任も元の姿に戻ったのか、南の島を満喫していた。