第7章 克服の時間
錠剤をとりあえずと一粒差し出されて、それと一緒にキャップの開けられたペットボトルの水が手渡される。
しかし、私の身体はそれで止まってしまう。
『…嫌』
「嫌って……でも、飲んだ方がちょっとでも楽になれるんじゃ…」
『錠剤、嫌い…飲めない。飲めないし、飲みたくない』
こんな時だけれど、錠剤を飲みたくないのは本心。
水でなんて私は飲めないし、もう飲もうとも思えない。
「君、それ今までいったいどうやって飲んでたのさ」
『……あ』
考えても分からなくて部屋を見渡し、床がほんのりとした桃色である事が目に付いた。
「あ、って…ああ、それももしかしてあの男が関与して……いったいどうやって飲ませたんだか」
『…桃。桃、食べた』
「え、桃?桃って……え、なんで薬で桃!?」
薬と桃色を見て、すぐに桃のイメージが頭に浮かぶ。
そして、薬と一緒に口にした桃の食感を思い出した。
『桃好きなの。桃、好きだった…桃と一緒に、薬飲んでた……と思う』
「い、いや、確かに桃は美味しいけどね!?桃と一緒にどうやって薬なんて飲むのさ!?せめて桃のゼリーとかならまあ可能性はあるかもしれないけど」
『!!それ、白桃ゼリー!』
トウェインさんの言葉でようやくすっきりした。
確かに桃自体も食べてたけど、薬の時のあの食感はそれじゃない。
ゼリーに包んで一緒に飲んでたんだ。
「え、何?僕のおかげって感じ?今」
『うん!ゼリー…ゼリーだよ!中でも白桃ゼリーが一番大好き!…な気がする』
えへ、と笑ってみせれば、トウェインさんは少し驚いて、少ししたら微笑み返してくれた。
「そっか。僕のせいみたいなものだったから、ちょっとでも思い出せた事があって良かった…白桃ゼリーだね。明日から用意しとくよ。その感じだと、今はもう飲まなくて大丈夫そう?」
『大丈夫…なんか嬉しいな。なんでだろ、薬飲むの大っ嫌いなのにね、なんか嬉しいの』
「中原中也に関することだったんでしょ、まさかそんな事を思い出すだけでもそこまで効果あるとは思ってなかったけどさ?妬けるなぁ、本当に」
またその名前…
『…その人の事、なんでそんなに話すの?』
「え?」
『だって、やきもち妬いちゃうんでしょ?じゃあ、私今は忘れてるんだから…都合のいいようにでもすればいいのに』
そう言った途端、私の視界が地面から反転した。