第7章 克服の時間
フランシスさんはすぐに見つかったのか、忙しない足音と共にルーシーさんとフランシスさんが入って来る。
「なんだねトウェイン君、俺は、後は君に任せると言ったはずだが…いったいどうした、ルーシー君が慌てて駆け付けてきたから走っては来たが」
フランシスさんの方を振り返って、あれ、何でフランシスさんが?と声を漏らす。
するとフランシスさんは少し顔を強ばらせて、私に近寄り始める。
「ミス白石…君、もう吹っ切れたのかい?さっきまでそんなあどけない素直な表情を見せてくれてはいなかったと思うのだが」
『吹っ切れたって、私ここに入る覚悟を決めた時から、何も心残りなんて無かったと思うんですけど』
その言動に眉を潜めて、トウェインさんの方に目をやるフランシスさん。
そしてそれに合わせて私もトウェインさんの方に顔を戻せば、彼は何かとんでもないものを見てしまったかのような顔をして、何かに怯えるようにフランシスさんに目を向けていた。
「トウェイン君、何があった。彼女のこれは強がりなのか?それとも俺の前だからって演技をしているのか」
『私が強がる必要あるんですか?確かに探偵社の皆にも知らせてはないですが…フランシスさん?』
フランシスさんは目を見開いて、私を見る。
「ち、蝶ちゃん。もう一回聞くんだけどさ、好きな男の人…いなかった?一緒に住んでて蝶ちゃんが大好きで、お互いがお互いを何よりも大事にしてて……蝶ちゃんの名前を付けた人」
『私と…?名前って……!!』
トウェインさんにそこまで言われて、ようやく気がついた。
頭を押さえて、少し流れる冷や汗に肩を震わせる。
どうにもならない私の頭から解放してほしくて、助けを求めるようにトウェインさんに何とか目を向ける。
『と、トウェインさん…っ』
「!うん、何でもいいよ、言ってみて!」
『わ、私…誰と一緒に住んでたの?……おかしいの、誰かと一緒に住んでたのは分かってるのに、どんな風にしてたかとか何も頭に思い浮かんでこないの…っ』
何も…何も、ない。
頭の中には、何も浮かび上がってこない。
「彼女はいったい何を…っ?」
『私、どんなところに住んでたの?誰と、どうやって過ごして生きてきたの!?探偵社でも学校でも、ポートマフィアの誰でもないの!!』
落ち着いて、と慌てて背中をさすられる。
『ね、っ…誰?私の名前…つけた人って』