第7章 克服の時間
「………笑った、?」
「…本当」
『えっ?』
小首を傾げて二人を交互に見れば、目を少し見開いて私の方を向いていた。
「貴女、自覚無かったの?仕方のないことではあるけど、ここへ来てから、ずっと心に何かを押し込んでたような顔をしてたのよ?」
聞けば好き合ってた男がいたって話だったけど、とルーシーさんに付け足されて、すぐに自分の声が淡白なものになるのが分かった。
「ちょっ、ルーシーちゃん、それは…」
『好き合ってたって、誰の事?』
「「はっ…?」」
ルーシーさんに何かを言い返そうとしたトウェインさんも再びこちらを向いて、焦ったような顔になる。
『私にそんな人いませんよ?ああ、でもそうだなぁ…太宰さんとかなら私にかなり昔から良くしてくれてたような気もす「まってまってまって!!」トウェインさん?なんでいきなりそんな反応…』
「いや、蝶ちゃん、演技なんてもうしなくていいんだよ!?ボスももう分かってるし、僕の前でそんな強がらなくたって…さっきあんなに必死になってたじゃん!そんなになるまで辛いんだったら、言ってくれれば『だから、何言ってるのトウェインさんまで』!…な、何って……え、?」
ルーシーさんは訳が分からないという顔を浮かべ、トウェインさんに至っては冷や汗をかくほどに顔色が悪い。
冗談抜きで顔が青くなっている。
『トウェインさん…?顔色悪い……どうしたの?』
しゃがみ込んで顔を覗き込むと、トウェインさんは上体を少し後ろに引く。
「…蝶ちゃん、君好きな人がいるのに、男の顔とそんな近い距離にまで近づいちゃダメじゃない。僕無理矢理は性にあわないんだ、散々しといてなんだけど、蝶ちゃんがあの男の事大事に思ってるのにそんな意地の張り方しちゃ『意味分かんないこと言わないでよ』ち、蝶ちゃん…?」
ルーシーちゃん、ちょっとボス呼んできてくれる?とルーシーさんを外にやってしまって、私の両肩を掴んでトウェインさんがグ、と少し力む。
「い…意味分かんないってどういう事?どこが、意味が分からないんだい?」
『だから何回も言ってるじゃないですか。私にそんな特定の男性なんかいませんって「正直に言ってくれ!泣いても甘えてもいいから!!」いや、だから…』
トウェインさんは、私の目を見て言った。
「中原中也の事に決まってるじゃないかッ」
『中原中也…って、誰のこと?』