第7章 克服の時間
モビーディックと呼ばれるだけあって、太宰さんの言っていたように、本当に白鯨の姿をした拠点だった。
ステルス機能を一部だけ切ったモビーディックは海に浮かんでいて、船のようなそこに乗り込もうと波際まで足を伸ばす。
「進まないのか?拠点はもう目の前だが」
『………ちょっと、足が動かなくて…っ、きゃッ!?……えっ、なんでまた!?』
私の元に軽快な足音が響いて、何かと思えば誰なのかを認識する前に横抱きにされる。
そして触れる肌を伝って、ようやく暗闇にも目が慣れて、その人の顔を認識した。
「ボス、だから海にするのかって言ったでしょ、もう」
トウェインさんだ。
今の私が全てをさらけ出すことが出来る唯一の人物…トウェインさん、知ってたんだ。
私が海が怖いって。
「ああ、そういう事か。これは済まなかった、俺のミスだ…元々の原因も俺だろうがな」
『……いいタイミングで現れすぎて気持ち悪い、トウェインさん』
「酷っ!?今日当たり冷たいね蝶ちゃん!?」
口ではこんな事を言っても、実際はすっごく安心してる自分がいる。
来てくれて、ありがとう。
口で言えないから、そんな思いと一緒にキュ、とトウェインさんの服を掴んだ。
「!……さあ蝶ちゃん、ようこそモビーディックに!ほらボスも入って入って!」
「君が一番楽しそうだねトウェイン君?」
「ほら、例のアレが準備出来たんで!」
「ほう?まだミス白石は十四の少女だぞ」
「ちょっとそれ以上言わないでよ!?」
何なんだろう、この溢れ出る親子臭。
それにしてもアレっていうのが気になる。
私が十四だとか言ってたから…お酒とか?
私、お酒はあんまり飲まない方がいいんだけどな…酒癖悪いらしいし。
しかし勝手に自分の中でそう解釈していたせいで、次の日になって見せられるそのアレとやらに、私は驚くことしか出来なくなるのだった。
『えーっと…え?部屋って……部屋?』
「そうそう、蝶ちゃん用に急いで改装したんだよ!綺麗でしょ!」
『え、いやっ…私捕虜とか人質とかっていう扱いなんじゃ…』
拠点の中で最初に案内された私の部屋とやらがやけに綺麗で豪華だったために、思わず何回も聞き返す。
するとトウェインさんは勿論、フランシスさんまでもがキョトンとした。
「いや蝶ちゃん、仲間にって…」
「俺の所有物だろう」
「ボスのせいじゃん!!?」