第7章 克服の時間
烏間先生は私に頭を下げる。
『謝罪はしなくていいはずです。烏間先生の責任じゃあないでしょう…寧ろ、私の方こそ手加減出来なくてすみませんでした』
私がそう言えば、今まで誰一人として口を開かなかったのが、皆してざわざわし始める。
「い、いや待て白石、俺らちょっと、マジで自分の目が信じられねえんだが」
「ち、蝶ちゃん強すぎ…え、高熱出てるとか言ってなかったっけ」
「全力出せないってそういう事かよ、こりゃ周りに俺らがいたら戦えねえはずだ……にしても、これはちょいと強すぎねえか?」
口々に聞こえる声にどう対処しようかと考えていれば、カルマ君が口を開く。
「だから言ったじゃん、頭おかしいくらい強いって。これだけでもだけど、色々もっと条件が揃ってたら本当に中也さんに渡り合っちゃうからなぁ…」
今、一番聞きたくない人の名前。
『……そうだ、皆にお願いがあるの』
思い出してしまう前に、あのあたたかさを求め始めてしまう前に、とっとといなくなってしまおう。
皆はどうしたのといった顔を浮かべるけれど、私は淡々と話を続ける。
『取引の件が色々とあって、すぐにそっちの方に手をつけなくちゃならなくなったの。それに中也さんにも漏らせないような情報の取引とか結構入ってきちゃうから、もし中也さんがここに来ても、今日は私の部屋に絶対に近寄らせないようにして』
「え、中也さんだよ!?あの中也さんをだよ!?」
『うん、でも今はそれどころじゃないから。お願い、多分今からだと取引の方向を決定させるのにも時間かかるし…実行に移そうと思ったら最悪明日の夜までかかるかもしれない』
私の反応に皆戸惑っていて、フランシスさんの方を向く。
「出来るだけ早くに終わらせたいのは俺も同じなんだがな。人命がかかっている以上、軽く済ませていい話でないんだよ」
誰も、不思議には思っていない。
この時私は、心の底から、今ここにイリーナ先生がいなくて良かったと思った。
『あと烏間先生、調べたんですけど、皆が飲まされたウイルス…あれ多分食中毒菌の類のものです。死ぬようなものじゃないですよ』
「本当か!?」
『ふふ、死ぬようなものを私が自分の身体に使うわけがないじゃないですか。これでも一応プロですから…じゃあすみません、私は先にホテルに戻らせていただきますね』
一礼して、フランシスさんと屋上をあとにした。