第7章 克服の時間
折れた…骨がなのか、柵の方なのかまでは不明瞭だけれど、どちらにしてもあの男をこのまま下に落下させるわけにはいかない。
今にも外れてしまいそうな柵のところにすぐさま移動し、鷹岡の重心が後ろに傾いた瞬間に襟を掴んで、無理矢理屋上の中央に向かって投げ、飛び蹴りをして着地させる。
鷹岡は目を見開いて震えているばかりで、最早悲鳴は声にもなっていなかった。
「ま、ままま、待てよッ!てめえ、前はこんな力、一度も……!!首輪の話は嘘だったのか!!?」
『まだ喋る度胸あるんだ?生憎だけど、コレにはもっと別の使い方があるのよ…それに前って、皆が近くにいた時でしょう?そんな時にこんなことして、もしも誰かが怪我でもしたらダメじゃないって、分からない?』
「ヒィッ!!?」
当然のようにして侮蔑の眼差しを向け、殺気を込めて鷹岡を見下す。
白石蝶に…私の中に、殺したはずの零の片鱗が現れる瞬間だ。
『ねえ、これで終わりだなんて言わないわよね?散々なことしてくれておいて、懲りずにウイルスまで使って潮田君に報復なんてしようとして……私、ずっと全力で戦いたかったのに、これじゃあがっかりですよ?こっちの腕でも三流なんじゃないの?』
「ま、待てッ、前は俺の攻撃だってあんなに効いて!!」
『怪我してそこを庇ってただけに決まってるじゃない…ッ!!』
もう一度、強く回し蹴りをして、鷹岡の鳩尾に入れる。
ピンポイントで入ったらしく、最早悶えるレベルを通り越したのかピクピクと痙攣したようにその場から動かない。
『……こんな人にあの時勝てなかった自分が恥ずかしいわ。何しょうもない事コンプレックスにしてたんだろ、馬鹿馬鹿しい…っ』
最後にもう一度だけ蹴りを入れて、皆がいる方の屋上に向かって、少しひびが入るくらいの勢いで鷹岡を気絶させた。
すぐに自分もそちらの屋上に飛び移って、鷹岡の胸倉を掴み上げ、意識が無いのを確認してパッと手を離し、その場に捨てるようにして戦闘を終えた。
手袋を外してその場に落とし、殺気をしまって、もう戦闘の意思がないといったふうに烏間先生と皆の方を向いた。
そして烏間先生に向かって歩いていき、目の前で真剣に烏間先生の目を見る。
『烏間先生すみません、結構折ってしまってると思います。でも殺してはいないので…防衛省で、ちゃんと処分を下してください』
「…すまなかった」