第2章 暗闇の中で
「良かった、ちゃんと生きてる…っ」
私を抱きしめる腕により一層力が入る中也さん。
少しびっくりはしたけれど、それだけ大事に思われてたことや、忘れられてなかったということが身に染みて感じられ、今度は嬉し涙が滲み出てきた。
『…はい、生きてます。ずっと中也さんが来てくれるの、待ってました』
お風呂に入った後の下ろしている私の髪を一束片手ですくい上げ、何とも言えない瞳でそれを見つめる中也さん。
「髪、伸びたな。相変わらず綺麗だ…でも、俺の知ってる蝶がこんなに成長してて、正直最初誰だか分からなかった。」
けど、と中也さんは続ける。
「体も成長してるはずなのに、こうやって抱きしめて、声聞いて……やっとお前だって、身体が思い出したみたいに離れてくれねぇ」
『私も…中也さんから離れたくありません。』
髪をすくい上げていた方の中也さんの手に擦り寄る。
ずっとこの人に甘えたかったの、今日くらい甘えたっていいよね。
「!……蝶、?」
中也さんは驚いた様子で私の名を呼んだ。
『やっと私の方を見て、蝶って呼んでくれた…
中也さんにもう一度、名前を呼んで欲しかった。
頭を撫でて欲しかった。
頑張ったなって言って欲しかった。
慰めて欲しかった。
……抱きしめて欲しかった。
高校生の人達に攫われる時に、こんなにいっぱいして欲しいことが思い浮かんで、わがままだなって思ってたのに……
全部、この短い時間に叶っちゃいました』
へらりと笑ってみせると、丁度外では月にかかっていた雲も全て晴れたようで、私の表情がしっかりと中也さんに見えた様子。
「…ばーか、俺もそうしてやりたかっただけだ。お前の為なんかじゃねぇよ、」
少し照れた様子で目を逸らす中也さんだが、抱きしめている片腕にはもう少し力が加わった。
こんな反応をされると、同情心でも哀れみでもなく、本当に中也さん自身の意思でこうしてくれていることが強く伝わってくる。
『……中也さん、大好き、』
さらに片方の手に擦り寄って、小さく呟いた。
言葉が出てしまった。何をやっているんだ私は。
中也さんは、一瞬手をピクッと反応させた。
やってしまった、聞こえちゃった。
しかし、返ってきた返事は、私を遠ざけるようなものではなかった。
「俺も同じだ」
驚いて、中也さんの方を見つめると、私の頭を撫でてくれる。