第2章 暗闇の中で
『!!な、んで……何でいるんですか、?』
扉の開く音はしなかった。
つまり、私が浴場に行ってからずっと部屋にいたってこと。
「おい、質問に質問で答えんな。…で?誰にもう会えねぇんだ」
目の前にしゃがみ、私の頭に大きな手を置いて、優しい声色で話しかけてくれるその人。
『だ、誰って、っ……ちゅ、中也さん…、に、…っ』
目の前にいるその人の顔が、窓から差し込む月の光に照らされ、うっすらと見える。
「何で俺に会えねぇんだよ、…やっと会えたんだぞ、?ひでぇ顔しやがって…」
優しく、ただただ優しく微笑み、頭を一定のリズムで撫でてくれるその人には嘘なんてつけない。
反論することだなんて、私の本能が許してくれない。
『だ、だって私、あんな事っ……汚いの、汚くなっちゃったの、っ、だからっ、!』
「……お前は汚くなんかねぇ」
中也さんに抱きしめられ、小さいけどしっかりした声で呟かれる。
「何、された?言える範囲でいいから、言ってみろ。俺はお前から離れたりしねぇ」
『わ、私…っ、服、脱がされて、恥ずかしいかっこさせられて、……体中、何人もの人に舐め、られて、変なとこいっぱい触られて、っ』
「でも、キスはさせなかったんだろ?…お前の“はじめて”は、全部取られてないんだろ?」
『な、んでそれ…、』
「ほら、汚くなんかなってねぇ…汚されてなんかねぇんだ、よく頑張った」
この人は、どうしてこんなにも優しいのだろう。
盗聴機能で分かってくれたのだろうか、私がそこだけは譲らなかったということを。
『でも私、舐められたりなんかして、っ……ひぁ、っ!!?』
反論しようとすると、突然首元に生暖かい刺激を感じた。
『ち、中也さん、?今の、っ』
「嫌だったか?」
舐められたという事は直ぐに分かった。
だが、どうしてか、恥ずかしいのに、不思議と嫌悪感は感じない。
『……嫌、じゃ、ないです、…中也さんだから、』
素直にそう答えると、少し驚いた様子の中也さん。
「…そうか、なら、これで消毒だ。なんも気にすることなんかねぇ。次また俺と会わねぇなんて言ってみろ、圧死させっからな」
『…はい…っ、言いませんっ』
今度は私も、中也さんの背に腕を回して抱き着き返した。
「それでいい。……おかえり、蝶。遅くなってごめんな、」
『!…ただいまです、中也さんっ』