第7章 克服の時間
トウェインさんと一緒に部屋を出て、元いた五階の展望デッキに戻ると、フランシスがいた。
『皆の所に向かったんじゃなかったんですか』
「君とは、取引相手という設定なんだろう?彼らの前で通信なんてしていたら、怪しまれる」
つまりは最初からこうするのが目的だったってこと。
トウェインさんが優しいからこれで済んでいるだけで、私に一度痛い目に合わせておきたかった…自分の思いもしない行動を取らせないために。
この人もきっと、自分や構成員達のためにも必死な部分があるのだろう。
フランシスから手招きをされてそちらに向かうと、頭を撫でようとしたのか手を伸ばされる。
しかしそれに身体が拒否反応を起こしたようにそこから数歩後ろに下がり、呼吸も少し荒くなる。
『っ、ごめんなさ……ッ』
「…いや、いい。十分だ。こちらとしても手荒な真似をしてしまったようだしな…君はもっと大人なのかと思っていたが、中身はただただ純粋な少女らしい。どうやらやりすぎてしまったようだ…そこは、すまなかった」
近くに来てくれたトウェインさんの服を掴んで、震える肩を落ち着かせる。
フランシスが謝るとは思っていなかったものの、四年前の日の恐怖と今日の出来事で、完全に拒絶反応を起こしている。
こうするつもりなんて微塵もないのに、身体が勝手に拒絶する。
左手で胸元にしまった指輪を服の上からグッと握って、呼吸を次第に整えていく。
『子供じゃない…です、から。……なんで貴方が謝るんですか』
「…君くらいの年の子にするようなものではなかったと、我ながら思うからだよ。君があまりにも強いから、子供だということを考えてはいなかった。気持ちを踏み躙るようなことをしたのは、謝らなければならないと思っただけだ」
フランシスは、私の身体のことを知らない?
それに、どうしてこんなに悲しそうな、悔しそうな顔をしているの?
聞こうとしたけど、やめておいた。
聞いたところで、私はこの人を結局は心のどこかで裏切ろうとしてるから。
『子供子供って…私子供じゃないのに』
帽子と一緒に届けようとしたのは、私を迎えに来てという言葉。
探偵社と争わないで、助けに来てと、いう言葉。
だけど、もうそれもしないと決めた…後はもう、あるのはこの指輪だけ。
敦さんのために、拠点の居場所を知らせるために……私の心が、壊れてしまわないように。