第7章 克服の時間
『私が、救った…?嘘、だって私、トウェインさんに会ったことなんてないはずなのに…それに助けたって、私は元々殺ししかしてこなかったような人間で…』
「うん、それも知ってる。でも、確かに僕は君に救われたんだよ」
トウェインさんの思いもよらぬ発言に寧ろ私はさっきまでより大人しくなって、ギュウッと彼の暖かみを求めるように、顔を埋める。
『私が…人を?助けてた……?本当に私の事を分かってて、言ってるの?』
「……うん、分かってる。僕はね、蝶ちゃんが生まれる前に…“0”に、助けられたんだ」
その単語にピク、と反応する。
『嘘、そこまで知って…?どこからそんな情報が…』
「情報っていうか、ただの勘みたいなものだよ。蝶ちゃんの能力考えると噂になってた殺し方なんていくらでも出来るだろうし、何より同じ子にしか見えない…ボスに人体実験の話を聞いて、頭のイカれた研究者の実験内容を少しだけ耳にして、もしかしてって」
トウェインさんは私の前髪をかき分けて、優しく頬に手を当てる。
「…君の目は、ただの人間が手に入れられるような目じゃあない。何回も人の死を見てきていて……そして何回も死んだ事のある目だ。命というものを悟っている目だ」
『!!…普通、そんな事気付かないよ。そんな事思いつきもしない』
私の目を見つめるトウェインさんは、恐らく本当に本能で感じ取っていたのだろう。
私が普通の人間じゃあないってことを。
「わかるさ、僕天才だから。それに、僕なんかよりもよっぽど分かってた奴なんて、他にもいるでしょ」
『………知らない。そんな人、いないもの』
頭の中からその人の顔を、声をかき消して、何も知らないふりをして、トウェインさんに返事をする。
「…そっか。じゃあ蝶ちゃん、僕とりあえず外出とくね?これ以上このままいたら本当にもっと手出しちゃいそうで怖いから」
『うるさい、変態』
「ちょっ、扱い酷いって!!」
トウェインさんが上から退いてすぐに服を着直す。
彼が部屋を出ていってしまう前に、着てしまいたかった。
「!……蝶ちゃん、?」
背中から、お腹周りに腕を回して、顔を埋める。
『しない、から…お願い、他の人にはしません……我慢しますから』
「経緯が経緯だから嬉しくないよ、そんな強がり。拠点に戻ったらいくらでも甘えておいで」
コクリと頷いて、腕を離した。