第7章 克服の時間
「はい蝶ちゃん、もう通信は切ったよ。それにさっきはあんなこと言ってたけど、ボスは何も見ていない…蝶ちゃんがお願いした時だけ、僕が通信機を繋げる算段だったんだ」
涙を拭って、愛おしそうに私を見つめる。
ああ、この手があの人のものだったら、どれだけ私は嬉しいのだろう。
たったそれだけの事で、そしてそんなすごいことで、私はこれ以上にないくらいに幸せになれるのに。
もう、トウェインさんの手に抵抗する気も失せた。
『…優しくしないで。……敵、でしょ』
「優しくできたらどれだけよかったか…ごめん、手首痛かったね。そんなにいっぱい抵抗しようとして……謝っても謝りきれないよ」
何で、優しくするの。
行為の最中だって、冷たい風を装いながらも、手つきも心遣いも優しかった。
キスは深い方をしていない、舐められるのに弱いって分かったのに、一番弱いはずの首を舐めにはきていない。
私に一度も乱暴してないし、私がこんな風になるまで結局下に直接触れもしなかった。
何で、何でそんな風にするの。
手首の布をハラリと解かれ、自由になった手をゆっくりと動かす。
『嘘つき…最初から……優しかったじゃない。なんで優しくするのっ…!!』
「好きな子に酷いことなんてしたくないじゃん…ごめん、本当に……ごめんね」
私を抱きしめて、怖かったよねと、もうしないからと頭を撫でる。
なんで、こんな時まで好きだなんて言うの。
『……馬鹿ッ、トウェインさんの馬鹿ぁ…っ………』
グス、と子供みたいに抱きついて、どうしようもなくなった心を満たすように泣きついた。
それでもトウェインさんは優しくて、離しもせずにうん、うん、と私を安心させようとする。
『そんな、っ言われたら………甘えたくなるじゃないッ!…酷い人のふりしててよっ、敵のままいてよ!弱く、なっちゃうから……余計に辛いから…!!』
「ごめん…甘えていいから。不安な時でも、寂しくなった時でも、いつでも僕が蝶ちゃんといるから。中原中也の代わりでもなんでもいい、もう蝶ちゃんの事を泣かせないよう…頑張るからさ」
『っ…ねえ、なんでトウェインさんは私の事が好きって言ってくれるの。……なんで私を知ってて、なんでそんなにやさしくするの』
少し間を置いてから、トウェインさんは答えてくれた。
「君に、助けてもらったから。蝶ちゃんにね…救われたんだよ、僕」