第7章 克服の時間
「ほう?しかし君は、見たところ既に調子が悪そうだが…それにその枷がついているのなら、十分な戦いは出来ないんじゃないのかい」
『素手でも銃でもナイフでも、私の武器はいっぱいある。見たところ相手は異能組織じゃない。だから私でだって役に立てるところもあるかもしれない………最悪、誰かが危ない時に盾にだってなってあげられる』
なんて健気な子なんだ、泣けるねえ!と心にもない事を言うフランシス。
「それで?我々にどうして欲しいんだい」
『今回の敵…殺し屋たちの依頼主から私達が治療薬を奪い取って、皆の症状が回復すれば「それはいつになるのか分からないだろう。そんなには待てないぞ」…じゃあ、せめてホテルに戻って、メモだけ書かせて』
メモ?とフランシスは首を傾げる。
『大切な人に贈るためのプレゼント。ここから横浜に戻ったら渡すつもりだったの…直接手で渡せなくなるんなら、せめて私の言葉だけでも贈りたい。それだけ贈れれば心残りはなくなるから』
「ふむ。それならいいだろう、どうせ居場所や捕まったことを知らせたところで、誰もモビーディックには近寄れないしな。手紙でも何でも書くがいい」
『手紙なんか書かなくていい。メモ程度のものを書いたらすぐに行く。でも出来るだけ皆に気付かれないようにここを去りたい』
不明瞭な時間までは待てないと言ったフランシスに、私はもう計画を変更する事にした。
こんな事したら、また色んな人に怒られるだろう、心配させるだろう、悲しませるだろう。
でも、考えてみれば需要もちゃんとある。
私が、組合攻略の核になる。
治療薬の入手のためにかけられる時間は、せいぜいあと数十分。
どれだけ私がわざと時間を長くとったところで、どれだけ中也さんが早く向かっているところで、そこまでは引き延ばせないし、相手側強制的に私を連れて行ってしまうだろう。
『皆、最初で最後の楽しい一時を過ごさなくちゃ。私がそれを邪魔しちゃいけないから。部屋は個室にしてもらってるし、なんなら見張りをつけられたっていい。だけど、最後まで取引役でいて』
「まさか敵にそんな申し出をする子がいるとはね。まあ俺だって鬼じゃあない…要するに、君のお仲間に悟られないよう、いなくなる手を打とうとしているんだな?」
コク、と頷いけば、顎に手を当てて検討しはじめる。
『皆が帰る時まで、絶対誰にも気付かせたくない』