第2章 暗闇の中で
少ししてから、自分に掛けられていた布に気が付き、それが宿舎の布団ではないことに気が付いた。
『これ…』
今度はちゃんとはっきり見える。
真っ黒な布……正確に言えば外套だ、これは。
つまりは私を助けてくれた人のもの。
しかしこんな形をした真っ黒な外套…それに裏地の色に、何よりも懐かしさを感じるこの香り。
どう考えたって、ここにはいないはずの人のものにしかたどり着かない。
『おかしいよね、だってここにはいないはず……』
仮にもしそうだったとして……ああ、考えるのはやめておこう。
とりあえず持ってきていた仕事用の服を身に纏い、私に掛けられていた外套は綺麗に畳んで腕に抱えた。
きっと誰かがこれをたまたま持ってただけ。
そうだよ、カルマ君とか烏間先生とかいるじゃない。
とりあえず、お風呂に入りたい。
宿舎には皆で供用の浴場しか無いため、浴場に行くにも誰もいないかを警戒しつつ向かっている。
しかし、どういうわけか驚く程人がいない。
気配すら感じ取ることの出来ない廊下を通過し、浴場へ到着した。
『……』
最初にシャワーで体を洗い流すものの、嫌悪感が募ってくる。
終い目には、何度も何度も、強く体中を石鹸で擦り続けた。
『……取れない、取れない、っ』
まだ体中に残ってる、あの感覚。
気持ち悪い、気持ち悪い!
『…っ、ぃ……た、ぁ…』
爪が当たってしまったのだろうか、鋭い痛みを感じた場所を直ぐに確認してみると、左腕に血が滲んでいた。
気にすることなんてない、どうせすぐに治るんだし。
しかし血液を見たりするのもあまり気分が良いものではないので、最後にもう一度全身という全身を洗い流して、足早に浴場を後にした。
廊下を少し行った先には自動販売機があり、そこには見慣れた赤髪が見えた。
『あ、カルマ君。』
「え?あ、蝶ちゃん!?」
何故かやば、と少し声を漏らしたカルマ君だったが、今彼がいてくれたおかげで何も考えないで良くなった。
『うん、ごめんね心配かけちゃって。』
「ううん、それよりも無事に助かったみたいでよかった。流石、俺らなんかとは違うなぁ…」
どうやら私を助けてくれたのはカルマ君ではないようだ。
『…ねえカルマ君、誰が、私を助けてくれたの?』
すると、驚いた顔で教えられた
中也さんだよ
愛しいあの人の名前。