第7章 克服の時間
「だっておじさん、ホテルで最初にサービスドリンク配った人でしょ?」
不破ちゃんが言って、皆が思い出したようにあ!と声をあげる。
「断定するには証拠が弱いぜ。ドリンクじゃなくても、ウイルスを盛る機会は沢山あるだろ」
「皆が感染したのは飲食物に入ったウイルスから。そしてクラス全員が同じ物を口にしたのは、あのドリンクと船上でのディナーの時だけ」
けど、と不破ちゃんは続ける。
「ディナーを食べずに映像編集をしてた三村君と岡島君も感染した事から、感染源は昼間のドリンクに絞られる。従って犯人はあなたよ、おじさん君!!」
「ぬっ…」
「すごいよ不破さん!!」
「なんか探偵みたい!!」
探偵って、私の本職だったはずなんだけどなぁ…ていうか、
『この人がウイルス盛った人だったの?サービスドリンク配られてた時にいればもっと早く気づけたのか…』
後悔したように口を開けば、一瞬で皆がこちらを向いた。
「なんだい、護衛係ちゃんはどうして俺が、こっち側だって見破れたんだ?」
『……殺気を隠すのが甘かったから。後は動きのわざとらしさと…私の勘』
「「「勘!?」」」
皆の反応はそこに焦点が当てられていたけれど、烏間先生や相手の男は眉を潜めてこちらを見る。
「俺の動きに違和感をもって……殺気を見抜いた?おいおい嬢ちゃん…そりゃあ、そういう所をくぐり抜けてきた奴の勘だぜ。何者だいったい」
『私の事をよく知りもしないで喧嘩売ってきたの?上等じゃないですか…!!』
こういう相手は、体の方は鍛えてはいない。
経験から分かること。
「ぐっ…!!?」
即座に相手の鳩尾に少し強めの蹴りを入れれば、すぐに相手は悶え始めて、少し吹き飛ばされて蹲った。
『一つだけ言っておきますけど、烏間先生にまで手出して…あんまり私の事、怒らせないでください?』
蹲る相手の上に馬乗りになり、相手のこめかみに銃を突きつける。
こっちだって、ずっと頭にきているんだ。
ちょっとくらい怒ったって、仕方ないよね。
「くっ…、へへっ、何で象でも気絶するようなガスでそんなにピンピンしてられんだか」
『象よりずっと強いですから…』
私が銃を離した時だった。
「そうかい……でも、嬢ちゃんは象より優しいみてえだな!!」
『へっ…何……ッ!?』
今度こそ本当に殺気がなくて……男の動きに、気づけなかった。