第7章 克服の時間
烏間先生の合図に皆が返事をしたのを見て、もうマップは頭の中に入っているため、助走をつけようと崖から少し距離をとる。
こんなもの、能力を使うまでもない。
「!白石さん、もう覚えたのか?」
『お昼の下見の段階でもう頭に入れてましたから。先に上まで登って、もし警備がいたら気絶させておきます…この崖がもし崩れたりしても危ないですし、ウォーミングアップついでに安全確認もしていきます』
「こんなに頼れる護衛がいると、益々皆さん安心ですねぇ」
フフ、と少し微笑んでから、思いっきり助走をつける。
中也さんを相手にするくらいの気持ちで、速く…ただひたすらに勢いをつけて。
『…………っ、と…!』
目ぼしい出っ張りを先にいくつか検討をつけておいて、そこに飛び移るように…脚力だけで、飛んでいく。
「…末恐ろしい」
「蝶…よね。あれ」
流石に高さがあったために何回も飛ぶことになってしまい、少しだけ息が切れる。
しかしやはりそこまで辛いようなものでもなくて、上まで登りきって少しすれば、もう息は整え終わった。
中也さんだったらもうちょっとかっこよく最後までいれるのかな、なんて考えを忘れるように私も気合を入れる。
少しして皆も登ってくるのが見え始めて、普段の訓練のクライミングのおかげか、皆スイスイと登ってきている。
ここまで出来るんなら十分だ。
この夏休み期間中にだって、十分に実力は伸ばしてきているんだから。
『!カエデちゃん!』
「『その岩尖ってるよ!』」
カルマ君と声が重なって、そちらに目を向ける。
「わ、本当だ!ありがとう〜」
カルマ君はやはり身軽で、周りよりも登ってくるのも早かった。
『フフ、お速いことで』
「手も使わずに飛んで登りきっちゃった子が何言ってんのさ」
落ちないようにとカルマ君を引っ張り上げてから、軽く腕を合わせる。
…一人で行くよりも、確かにこの方が心強い。
カルマ君に続いて到着する子を次々と引き上げて、全員が崖の上に到着する。
警備はいないし、今のところ何も問題は無い。
セキュリティシステムの解除や監視カメラは、律が操作をしてくれるそう。
手間が省けて、やはりここでも少し気が楽になった。
「行くぞ。時間が無い、状況に応じて指示を出すから見逃すな」
侵入ルートの確認を終えて、烏間先生が裏口の扉を開けた。
ここからが正念場だ。