第7章 克服の時間
烏間先生もかなり焦っている様子だ。
恐らく先生の中でも、カルマ君の言うように、私一人で行かせるのが一番リスクが少ないというのは考えられていること。
しかし烏間先生の性格上、こんな小さな見た目の女の子一人に…普通のただの一生徒として分け隔てなく接する私に、一人で敵地に乗り込ませるだなんてことはさせない。
答えを出すのを渋っていると、殺せんせーが口を開いた。
「いい考えがありますよ。律さんに頼んだ下調べも終わりましたし、白石さんもクラスのみんなに入手した情報を送っておいてください。元気な人は、汚れてもいい格好に着替えて出てきてくださいね」
殺せんせーに言われた通りに、全員の携帯に昼間入手した情報を送る。
そして、試しに…烏間先生にも本人にもバレないように、ちょっとだけ前原君の症状を、私に移し替えた。
『……これ、ウイルス…?』
ポソリと漏らした声は誰にも聞こえていなくて、私の身体に一瞬だけ現れた症状といえば、少しの頭痛とお腹の痛み。
犯人が言うには細胞がグズグズになるという類のものだったけれど、そんな感覚は一切しない。
犯人と薬を作った人物は、同一人物ではない…?
私は実験の影響で色んな薬を使われすぎてて、様々な薬やウイルス、毒の類に耐性がかなりついている。
しかしそれを差し引いたとしても、これは死に至るような類のものではないと、直感的に身体が認識した。
なぜかといえば、少し痛みがあるだけだったから。
苦しむ事のないようなレベルだったから。
麻酔薬でさえよく効くものなら私にだって効きはする。
しかしこれは、私が苦しむのはおろか、死んでしまった経験のないレベルのものだ。
……中学生の普通の子になら、これくらいで十分に恐怖は植え付けられるか。
倒れた全員から少しずつ症状をもらい受けてから、私も急いで着替えに向かった。
流石に十人以上の熱や感染症をもらい受けて少しふらつきはしたけれど、全員で乗り込むのなら大丈夫だろう。
何よりこちらには烏間先生もいるし……カルマ君が、いるんだから。
中也さんに買ってもらった服を着ていくのは気が引けて、念のためにと持ってきておいた探偵社での格好で行くことに決めた。
結局こういう事態になると、マフィア時代とよく似たこの格好が、一番しっくりくるし気も引き締まる。
シャツの内側に指輪をしまって部屋を出た。